東欧で医学を学ぶ


ハンガリー国立センメルワイス大学在学
石川甚仁

2017年11月9日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行

私は、ハンガリーの首都ブダペストで医学を学ぶ学生だ。現在は、解剖学などの基礎医学を中心に学んでいる。本稿では、実際に通っている大学の経験とハンガリーの医学部に日本人が進学する理由を考察したい。

私が通うセンメルヴェイス大学は、首都ブダペストにある。医学部にはハンガリー語コース、英語コース、ドイツ語コースがあり、私は英語コースで学んでいる。英語コースには、アメリカはもちろん、イギリス、イスラエル、ノルウェー、スペインなど、主に欧州各地から学生が集まっており、英語コースだけで250人ほどの学生がいる。

ハンガリーの医学部に日本人が進学するようになったのは2006年からだ。現在、ハンガリー国内で約400人の日本人が学んでいる。ハンガリー国内には4つの医学部があり、合わせると約40人の日本人が毎年入学している。首都ブダペストにあるセンメルヴェイス大学には毎年10人から20人が入学する。現在までに、ハンガリーの医学部をすでに卒業し、日本の国家試験に合格後、日本国内で働いている医師は2017年現在で41人になる。まだまだ少数ではあるが着実に結果が出てきていることがわかる。

なぜ、今、東欧の医学部に惹かれるのか。理由はの一つは「学費」だ。日本の私立大学の医学部に比べて、学費が安い。グラフで見てみると、このあまりにも大きな差に正直驚いた。センメルヴェイス大学では、6年間の合計が1200万円だ。日本の国公立大学約400万円弱(6年間)よりは高いが、私立大学の約2000万円から5000万円に比べると半分以下の学費で学ぶことができる。

生活費もヨーロッパの中では安い方だ。家賃は毎月5万円前後。ハンガリーは農業国としても知られ、野菜や果物の値段も安い。自炊をすれば年間約150万円以下で生活できる。こういった学費の面と生活の費の面を考えると、一般家庭の医学を志す若者が目指す選択肢として東欧の医学部が上がることは必然なのかもしれない。

東欧で医学を学ぶ

「学費」以外にも、もちろん「偏差値」も関係する。日本の医学部より入学しやすい。レベルは国公立の理系学部と同じくらいのレベルである。それに比べ、日本の国公立大学医学部への入学はとても狭き門だ。医学部合格者は国公立大学だけで毎年4000人ほど出るが、全国の受験者数が約56万人で推移していることから考えると割合は1%以下となり、「超難関」である。さらに現役合格となると更に低い数字となる。

このように「学費」「偏差値」という観点で「お得」な東欧の医学部に来ている学生は、日本のどこの出身なのかということに興味を持ったので、調べてみた。

まず、高校を卒業する18歳人口あたりの国公立大学の定員を調べて見ると、明らかに大都市圏における割合が少ないのがわかる。(以下図を参照)

東欧で医学を学ぶ

つまり、日本国内で医学を志そうと思った若者が大都市圏である一都三県、愛知、大阪、京都、兵庫、福岡の医学部に進学しようと思うと、競争率はとても高い。学生は、主に地元の大学に進学しようとする傾向があり、育った土地の医学部に入ろうとすると、その夢が叶うのはほんの一握りしかいない。そこで、日本の私立の医学部に目を向けたとしても、その学費から考えるととても一般家庭では払える金額ではない。浪人を経て、やっとの思いで国公立の医学部に入るか、もしくは浪人を繰り返したとしても、夢叶わず諦めて、医学以外の道を選ぶ。そこで今新たな選択肢として東欧で学ぶ道が開けた。

実際に、首都ブダペストにいる周囲の日本人を対象に出身地を見ると、あくまで私の個人的な印象だが、関東出身者が多い。続いて九州、近畿、と続く。九州は、競争率も高い上、もともと大陸が近く、外国に対する関心度合いが高いため留学する意欲も高いと考えられる。関東以北は比較的医学部定員数にも余裕がある上、実際にハンガリーに渡る割合も多くない。まだ、把握できる人数も多くないのでまだまだ傾向を見るのは難しいが、今後人数が増えれば傾向が出てくると思う。

医学部に入れたからと言って「安泰」ではない。日本に比べ入学は比較的容易だが進級が非常に厳しい。大学全体で、約4割が順調に進級し、3割が留年、3割が退学となる。決して割安だからと言って「確実に医師になれる」という保証はない。入学できたから「安泰」という気持ちを持っている人は誰一人いない。

私自身も苦労をしている1人である。30歳を超えて医学を勉強し直そうと考え、ハンガリーに渡った。東京にある理系の大学を出ており、「大学生活」を経験しているので若者に比べて「アドバンテージがある」と思っていた。
しかし、そのアドバンテージも、過去の実績も全く関係なかった。
試験範囲、覚えなければならない分量、合格ライン、試験方法、どれをとってもすべてが違った。実際の試験で「聞かれた質問内容」や「ここは試験範囲に含まない」など、膨大な範囲を如何に絞って勉強するか。情報収集が一番大事であり、そのための友達作り、コミュニケーション能力、英語力も必要だ。

英語力は、渡欧前は腕試しで受けたTOEICで630点程度。600点以上だと「ゆっくりと配慮して相手に話してもらえば、目的地までの順路を理解できる」レベルとTOEIC公式ページにある。英語は楽器の練習に似ていると私は考えている。練習しなければ、弾けなくなる。ハンガリーに渡った後、英語に関して悩む場面は多くあったが、最後は人と人とのコミュニケーションであるため必死に周囲に話しかけ、関係を構築していくことが大事だと思う。そうすれば、自然と会話ができるようになってくる。毎日、練習あるのみ、と今でも思う。

日本と海外の大学の違いにも驚く場面は多い。試験を受ける度に、日本の大学と何が違うのか、真剣に考えたこともあったが答えは見つからない。ただただ、解決策は目の前の勉強や試験に向き合うことしか方法はない。試験日程も自分で決めなければならないし、試験を受ける科目の順番も自分で決める。うまく休憩をはさみながら、「休む」「サボる」という力も当然必要であり、このバランスを取るための自己管理能力も身につける必要がある。

私自身、どこか日本という仕組みと自分の過去に甘えていたのかもしれない。海外では「自分で決める力」「自分で掴み取る力」が本当に試される場所だと、試験の度に思う。東欧に新しいチャンスができた分、それを自ら掴み取るか否かは自分次第である。

外国人の友人たちも試験期間になると「椅子に座りっぱなしで、ずっと数日間家から出ていない」とつぶやき、試験前日になると「お互いに頑張ろうね!」と励まし合いながら試験に望む。日本の試験に比べると口頭試問が多いので、試験官に質問されて、即座に、わかりやすく説明できるような勉強の方法を身につける必要がある。海外生活という環境の違い、言語や文化の違い、学生それぞれが色々な苦労に立ち向かい切磋琢磨し生活をしている。

このような試練をくぐり抜け、外国の大学を卒業した医師が増えてくれば、今までの医学界に新たな風を取り込むきっかけになることは間違いないと言えるのではないだろうか。近年の医師数の「西高東低」という偏向を少しずつではあるが解決する一手になるのかもしれない。そのためにもまずは、私自身が目の前の勉強に向き合い、一刻も早く医師として活動することを目標に毎日を着実に過ごしていきたいと改めて思う。
(MRIC by 医療ガバナンス学会より転載)

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