東京都葛飾区で整形外科をメインに展開している、医療法人社団 大親会 さくら通りクリニック。2年前から医師不足に陥り、クリニックを開けられない日も珍しくなかったと言います。紹介会社への相談や求人の改善など手を尽くすも、効果なし……。そんな中、主力メンバーだったアルバイトの先生に海外留学が決まったことで、存続の危機にさらされます。「藁にもすがる思いで取り入れた」という新たな採用手法と、その効果とは?医師採用未経験のなか、採用活動に取り組まれたという代表理事の岩田大右氏に伺いました。
目次
- 医師不足でクリニックを開けられない日も
- クリニック存続を賭け、取り入れた採用手法
- 2年も面接0件だったのに…スピード採用の要因とは
- 一スタッフから、経営者へ。その背景にあった思い
- スタッフと患者さんの笑顔があふれるクリニックにしたい
医師不足でクリニックを開けられない日も
──貴院では以前から、医師不足が逼迫した状況だったと伺いました。
はい。私がリハビリスタッフとして当院で働き始めた2019年4月には、人手を何とかやりくりしている状態でした。2年前に理事長先生が交代する予定だったところ、後任の方が体調不良で引き継げなくなってしまってからのようです。理事長先生には勤務を継続いただいているものの十分なコマ数を入れられず、アルバイトの先生でなんとかサポートしている状況でした。クリニックを開けられない日も珍しくありませんでした。
状況を打開するため、複数の紹介会社に相談し、アドバイスをもらいながら求人の内容を見直したりもしていましたが、ほとんど紹介に結びつかず……。また、紹介いただいてもそこから先の進展がなく、医師確保の見通しが立たないまま2020年の夏を迎えてしまいました。
──採用活動に注力するも、成果につながらない期間が長かったんですね。
そうこうするうちに、主力メンバーだったアルバイトの先生が、残り半年で海外留学されることに。「このままではクリニックを存続できない」と頭を抱えていたとき、転機が訪れました。
──転機とは?
エムスリーキャリアの採用支援担当の方と話したことをきっかけに、当院がどういうクリニックなのか、紹介会社への情報共有が不十分だったと気づいたんです。
たとえば、私は企業経営の経験があって資金調達も十分できています。そのため資金力には不安がなく、競合と遜色ない条件を提示できていたのですが、そういった経済的なバックボーンが伝わっていなかった。
どんなに条件を改善しても、なぜその条件が可能なのか背景を説明しないと、医師にとっては「条件だけ良くて、実態があまりわからない」という印象につながってしまうんですよね。誰がどういう風に運営しているクリニックなのか、具体的にご説明したことで、紹介が徐々に増えていきました。
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クリニック存続を賭け、取り入れた採用手法
──紹介会社に情報が共有されたことで、状況が好転し始めたんですね。
とはいえ、なかなか面接まで至りません。採用リミットがあと3カ月と迫る中で、紹介を待っているだけでは心許ない。そんな折、求職中の先生にオファーできるサービスがあると聞き、藁にも縋る思いで「M3 Careerプライム」(以下、プライム)の導入を決めました。
すると、なんと最初にオファーした30代の先生が入職してくださることになったんです。気さくで明るいお人柄の先生で、クリニック経営駆け出しの私にいろいろアドバイスをくださるのでとても心強いです。2021年度以降は理事長兼院長として勤務いただく予定です。
──非常に短期間で成果に結びついたんですね。
これまで半年に1回、紹介会社から連絡があるかないかで面接は0件だったので、こんなにすんなりと採用に至るとは、嬉しい驚きでしたね。
以前の待つしかなかったつらさを思うと、自分たちからアプローチできる仕組みは本当に画期的だと思います。接触できる先生の数を増やせば、採用確率も確実に上がりますから。毎週最新の求職者情報が配信され、オファーすれば必ずコンサルタントの方が当院の情報も先生に伝えてくれるというのも、安心感がありました。
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2年も面接0件だったのに…スピード採用の要因とは
──採用成功の要因は何だとお考えですか。
当院にマッチする先生と早く出会えたのは、運が良かったと思います。結果的に私は1件しかオファーしませんでしたが、オファー作成と面接準備はけっこう頑張りましたね。
──オファー内容は、どんな点を意識されたのでしょうか。
とにかく現状を包み隠さずお伝えする、ということを意識しました。
患者層や条件面はもちろん、常勤医師が不在で採用が急務であること、資金面で余裕がある理由、リハビリスタッフとして日々現場に立っていることなど、求人だけでは伝えられない情報・思いを盛り込んで、当院がどんなクリニックなのかイメージできるような内容を心掛けました。
──取り繕わず、ありのままを伝えるオファーにしたということでしょうか。
どんなに良く見せたところで、いずれ実情はわかります。先生の人生を左右することですし、ゴールは採用ではなく安定的なクリニック運営ですから、率直にリアルをお伝えすることから始めるべきだと思いました。
また、先生に興味を持っていただかないと面接までたどり着けないことはこの1年で身に染みていたので、印象付けるためにもリアルかつ具体的な情報提供が効果的だと考えました。
──岩田さんの思いを込めたオファーが届いて、面接に結びついたんですね。面接ではどんな点を意識されていたのでしょうか。
当院で導入していないことでも、先生の興味がありそうな領域に関してはある程度お話できるよう、事前にリサーチしました。
たとえば、再生医療への関心が強い先生と面接する際には、再生医療機器メーカーにいる知人から、施術の内容や各メーカーの違い、導入に際しての予算など詳細に教えてもらって、面接に臨みました。面接時には「実際に導入したとして、うまく運用が回るようになったら、売上の〇%をインセンティブとして支給できます」ということもお伝えしました。
面接後の感想で、「よく調べて理解してくださっているんですね」と好印象だったと伺い、求職者のニーズに沿った知識・情報を持っているかどうかは重要なんだなと感じましたね。
──求職者の関心に沿って話ができるよう、事前準備にかなり時間を割かれたんですね。
ドクターの世界は未知なので、自分にできるのはとにかく相手を知ろうとすること、そして当院について腹を割って伝えることくらいでした。伝手もなければ、医師の価値観やキャリア軸も全くわかりませんでしたから。
手探りでアピール方法を考える中、エムスリーキャリアの採用支援担当の方や、コンサルタントさんに「こういうことを伝えてみようと思うんだけど、どうでしょう」とよく相談していました。「先生も気になるポイントだと思う」「こういったことを伝えてみては」というフィードバックが非常に参考になりました。
一スタッフから、経営者へ。その背景にあった思い
──少し話がそれますが、先ほど「リハビリスタッフとして現場に立っている」とおっしゃっていましたね。
2019年当初はリハビリスタッフの一人として、週に3回ほど勤務していました。ただ前代表理事はクリニック運営以外にも携わっていて、現場への目配りが難しい状況でした。現場を知っている立場で意思決定をする方が何かとスムーズだろうということで、譲渡のご相談をいただきました。
──運営まで担うのは、大きな決断だったのではないでしょうか。
責任も動くお金も大きいので、3カ月ほど熟考を重ねました。ただ、もともと祖父が医院を運営していて「いつかは私も」という漠然とした憧れを抱いていたことや、これまで同僚として働いてきたスタッフたちの力になれればという思いもあり、お引き受けすることにしました。2020年3月から、代表理事として正式に当クリニックの経営に携わっています。
スタッフと患者さんの笑顔があふれるクリニックにしたい
──コロナ禍のさなかに、経営を引き継がれたんですね
コロナ禍が経営を直撃したこともあり、資金調達額が想定よりも多くなってしまっていますが、まずはスタッフが安心して働ける環境、患者さんが通いやすい環境を整えることが先決と考えています。昨年は人員不足でクリニックを開けられない日もありましたが、今年からはどんなに患者さんが少なくても、経費がかさんでも、必ずカレンダー通り運営するという方針に切り替えました。
──今後のクリニック運営にかける思いをお聞かせください。
運営に携わるにあたって、スタッフ全員に配った文章があります。その中に、当院の共通理念として「すべては笑顔のために」というキャッチコピーを掲げています。患者様もスタッフも、さくら通りクリニックに関わる方がみんな笑顔で毎日を過ごせるような、そんなクリニックづくりが目標です。
患者様が少しでも症状が緩和できるよう居心地のいい雰囲気をつくり、また医師も看護師もリハスタッフも、全員が気持ち良く働ける職場にしていきたい。私自身、リハビリスタッフとして患者さんと接しながら治療に携わることが楽しく、やりがいを感じています。
なにせ下町の小さなクリニックですから、悪い噂はすぐ広がるし、いい噂は広めるのが難しいでしょう。だからこそ、目の前の患者さんやスタッフを大切にすることが、当院の未来につながっていくと考えています。
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