施設基準管理によって増収につなげるには“攻め”の業務が重要──。こう語るのは、パナソニック健康保険組合 松下記念病院で施設基準管理に従事する荻野一樹氏です。施設基準は維持することに目が向きがちですが、そうしたいわば“守り”の業務のみにとどまらず“攻め”の業務に注力することが、これからの病院経営において求められると言います。
2019年6月に開催された「第1回 施設基準管理士会員交流会~合格者祝賀会~」(主催:一般社団法人 日本施設基準管理士協会)での発表内容をまとめました。(交流会の開催レポートはコチラ)
パナソニック健康保険組合 松下記念病院事務部(大阪府、323床)
経営企画課 経営企画係 主務
荻野一樹
【発表テーマ】
施設基準管理業務における「守り」と「攻め」
―日常的な施設基準の管理手法と増収に向けた取り組みについて―
※以下、当日の発表内容をもとに編集しています。
“守り”だけでは生き残れない
私は、新卒で当院に入職し、人事総務部・医事課を経て、現在は経営企画課に勤務しています。施設基準管理業務に携わるようになってかれこれ5年ほどですが、本日はその中で考えたことや学んだことをお話したいと思います。
施設基準管理を担当するようになってから、様々な経験をさせてもらいました。当院では2019年5月1日時点で、130の施設基準を届け出ています。定例報告や適時調査の対応以外にも、各現場や上司から日々、様々なお声をいただきます。
これまでの経験を通して、私は、「施設基準の担当には“守り”の業務と“攻め”の業務がある」と考えています。“守り”の業務は「施設基準を維持し、適切な対価を得る業務」で、“攻め”の業務は「新規の届出など、病院の収益を増やす業務」のことです。“守り”の業務は恐らく多くの病院が取り組んでいると思います。一方で、“攻め”の業務に注力しているという話はあまり耳にしません。病院経営の環境が厳しさを増している今、守りと攻め、両方をいかにバランスよく実行できるかがカギとなっていくのではないでしょうか。
守り:適切な対価を得る業務(届出済みの施設基準を守れているか?)
- 従事者変更
- 医療機器の変更
- 病床数の変更
- 個室料金の変更
- 定例報告
- 適時調査 など
攻め:収入アップにつながる業務(届出・算定の抜け漏れはないか?)
- 点数改正の対応
- 新規施設基準の届け出
- 算定状況の分析
- 届出状況の他病院ベンチマーク など
マイナーな施設基準も漏れなく管理
まず、当院における“守り”の業務の中から、「日常的な施設基準の管理手法」についてご紹介します。大まかな流れとしては、以下の通りです。
- 情報の集約
- 集まった情報を届出状況と突き合わせてチェック
- 届出用紙の作成(提出しないものも含む)
- 保管
それぞれのステップについて、具体的にみていきましょう。まず施設基準に大きく関わる「人事に関する情報(入職・異動・退職・氏名変更)」と「医療機器に関連する情報(新規購入・更新・廃棄)」を集めます。人事情報は総務課からメールで連絡が入るようになっており、医療機器に関する情報は管理課が全体会議で発信しているものを確認します。また、各現場から直接、「〇〇さん退職するよ」「この施設基準届出できないかな?」と個別で情報をいただくことも多いです。
次に、集まった情報を現在の届出情報と突き合わせて、従事者情報変更の手続きの要・不要を確認します。当院ではエクセルで「届出状況管理シート」と「届出業務管理シート」を作成しており、前者でチェックし後者で管理するというフローになっています。
「届出状況管理シート」では、施設基準ごとに届け出した職員を管理しており、氏名を入力すればその職員がどの施設基準の対象になっているか分かるようにしています。退職者が出たときは名前でフィルタリングして、届出の対象者になっているか確認します。
退職者が何かしらの届出対象になっていたら、「届出業務管理シート」の出番です。このシートには、月ごとに対応すべき届出をまとめてありますから、ここに退職者情報を転記しておけば、その月に必要な届出を忘れずに済みます。この届出業務管理シートには、従事者変更など主だった施設基準だけでなく、たとえば、3か月に1度の「向精神剤多剤投与の届出」や、年に1度の「手術件数の掲示更新」といった処理も全て記載することで、漏れなく管理・対応できるよう努めています。
最後に、届出用紙について。該当月の「届出業務管理シート」を確認し、届出用紙を印刷していきます。2018年度の診療報酬改定で届出が簡素化され、多くの場合において変更届の提出が不要になりました。しかし、当院では時系列で変更履歴を追えるよう、提出しない届出も用紙を作成しています。
提出分は上司に「届出業務管理シート」と照らし合せてダブルチェックしてもらいます。提出後は「届出状況管理シート」を更新してから印刷したものをファイル保管して、一通りの対応が完了します。
提出しないものは表書きに「内部管理:未提出」と明記した上で、同様に保管。1基準につき1ファイルで管理しています。
あとはこの「情報集約→チェック→届出用紙作成→保管」のサイクルを繰り返すだけ。ここまでが、「日常的な施設基準の管理手法」になります。
増収の可能性を見逃さない! 他院ベンチマークとは
次に、“攻め”の業務の中から、「届出状況の他病院ベンチマーク」についてご紹介します。
当院では、施設基準届出状況を他院と比較し、当院でも取得可能な施設基準がないか、定期的にチェックしています。厚生局のWebサイトでは、都道府県別に「施設基準の届出受理状況」を閲覧できます。近畿厚生局では医療機関別の届出状況などがエクセルでまとめられているので、このデータを使って他院とベンチマークしています。
具体的にどうするかというと、全施設では比較対象が多すぎるので、まず病院数を絞り込んでいます。たとえば「同規模病院」「同機能病院」「ライバル病院」など切り口は様々あるので最初はいろいろ試してみるといいかもしれません。私は、当院も参加する「大阪医事研究会」というコミュニティの35病院をピックアップしています。
ベンチマークする上でのポイントは、多くの病院が届け出ているのに、自院ではできていない施設基準を見つけることです。私はいつも、35病院中20病院以上が届け出ている施設基準に着目して、その中で自院が未届けのものがないかチェックしています。もし見つかったら、点数表で条件を確認するなどして届出できていない理由を探ります。建物・設備基準や人員基準など、何らかの条件を満たせていないのなら仕方ありません。しかし、条件を満たしているのに誰も意識することなく漏れてしまっている、というケースが往々にしてあります。そのような施設基準を見つけ出し、きちんと届出すれば増収につながる可能性が大きいです。
たとえば当院では、「乳腺炎重症化予防・ケア指導料」が上手く届出できていませんでした。この施設基準は2018年度改定で追加されたものですが、改定時は条件を満たす助産師がいなかったため届け出ていませんでした。その後、条件を満たせるようになっていたにもかかわらず、届出が出来ていませんでした。こういうことは意外と起こっているのではないでしょうか。今回の例に限らず、改定の時はかなりバタバタしているので、点数の高い施設基準へ意識が向きがちです。そのため、こういった細かい届出が漏れてしまうのは仕方ないのかもしれません。だからこそ、他院とのベンチマークを通して、漏れがないか定期的にチェックすることが大切だと考えています。
大切なのは“現場目線”の運用
新規で届出可能な施設基準を見つけたら、以下のようなフローで対応を進めています。
- 対象となる施設基準・算定要件の正しい理解
- 現場説明
- 運用の検討
- 施設基準の届出
- 算定状況の確認(場合によっては運用の見直し)
まず、私自身が該当の施設基準について正しく理解できるよう、点数表をしっかり読み込みます。それからごく簡単な説明資料を作成し、現場に足を運んで医師や看護師、その他コメディカルに説明します。ポイントは、運用についてもあらかじめ案を考えて説明・相談し、イメージを共有しておくことです。この段階で現場としっかり運用フローを固められれば、現場の施設基準に対する理解が深まり、適時調査の対策にも、算定要件の漏れ防止にもつながります。
運用イメージで重要なのは、フェーズごとに「誰が」「何を」しないと条件を満たせないのか、明確に示すことです。また、必要に応じ、計画書等のフォーマットなども現場と一緒に作成しています。現場にお任せすればいいのかもしれませんが、そういったところまで事務職が踏みこみ、一緒に作っていくことで、現場との信頼関係が築けると考えています。もちろん、実際に届出してからもきちんと算定状況を確認し、必要に応じて運用の見直し・現場への周知を行います。そうやってPDCAを回していく中で、現場とともに改善に取り組むことが、長期的な視点で経営へもプラスに作用すると思っています。
<文:角田歩樹、写真:塚田大輔>
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