地域の基幹病院(344床)として、現在18床のICU、12床のCCU/HCUを有する東京ベイ・浦安市川医療センター(千葉県浦安市、以下「東京ベイ」)。同センターでは、米国で集中治療の技術を身につけた指導医が一般外科、心血管外科、脳神経外科、循環器内科、一般内科など、様々な分野の重症患者の管理を担い、米国式の集中治療を展開しています。集中治療科の則末泰博部長に話を聞きました。
米国で思い描いた集中治療を日本に
―日本と米国では集中治療を取り巻く環境もだいぶ違うのではないでしょうか。
則末泰博氏(集中治療科 部長)
そうですね。そもそも、日本には米国のような集中治療の体制がないので、米国式のシステムに理解のある新病院に、ゼロベースで体制を築き上げられたというのは大きいと思います。もし、既存の病院に自分が思い描いていたような集中治療を持ちこんだとしても、おそらくうまく行かなかったはずです。
―「思い描いていた集中治療のスタイル」というのは、どんなものだったのでしょうか。
則末氏(集中治療科 部長)
米国で集中治療と言えば、病院にもよりますが、どんな手術の術後処置であっても、基本的には何でも診る場合が多いんです。脳外科、心臓血管外科、内科など、診療科も問いません。当センターにおいても、全ての患者さんの術後は、集中治療科が診るという体制をつくりたいと思っていました。
しかし、だからと言って、元々の主治科が関わらなくなるとか、ICUから集中治療医以外の他科の医師を排除するというわけではありません。各領域のスペシャリスト抜きに患者さんを診ることは出来ません。日々の全身管理や急変対応も大切ですが、集中治療医の役割は、患者さんの病態を正確に把握し、各科の守備範囲を横断的に把握したうえで、その患者さんにとって一番適した医師を連れてくることにあると思います。つまりオーケストラの指揮者みたいなものですね。
―日本では珍しいものをゼロから立ち上げるというのは、非常に難しいのではないかと思うのですが。
則末氏(集中治療科 部長)
もちろん今日まで紆余曲折というか、苦労はありました。連携する他科から信頼を得るというのは、生半可なことではありませんから。私たちの感覚としては「各科の大切な患者さんを預からせていただいている」という感じです。とにかく、患者さんのことを一番診ているという姿勢を貫き、医学知識の面でも他の医師から信頼されるよう努めなければいけません。本当に地道な日々の積み重ねです。
―実際、集中治療医の存在は、他科の医師にとっての大きなメリットになっている。
則末氏(集中治療科 部長)
そう思います。特に外科系の医師にとって、手術に集中できるというのは大きなメリットだと思います。術後患者さんや、複数の合併症を持つ重症患者さんに対し、日中、夜間を問わず集中治療科が対応しているので、外科医の負担は大きく減っているだろうと思います。また、米国の集中治療医は内科のバックグラウンドを持っているため、内科的に複雑な病態に対して適切に対処出来ることも患者さんにとって大きなメリットだと思います。
ほかの医療機関にも、東京ベイの集中治療を広めたい
―東京ベイのような集中治療医は、他の医療機関でも活躍できると思いますか。
則末氏(集中治療科 部長)
他科の協力が必要不可欠ですし、当センターのシステムを他の医療機関に持って行った場合、どのようになるかは、「やってみないと分からない」というのが正直なところです。まずそれが出来る集中治療医を育成するとことから始めなければいけません。ただ、当センターで築き上げた体制を、他の医療機関にもどんどん広めていきたいという思いはあります。 当センターは地域医療振興協会(JADECOM)が母体なので、将来的にほかの関連病院にも広められる余地は十分あると思います。もちろん、広めること自体が目的化しないよう、日本の患者さんが恩恵を被れるようにするというのは大前提です。今育てている研修医たちが、一緒にその役目を果たしてくれたら、とてもうれしいですね。
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