診療科を問わずすべての救急患者の初期診療を救急医が行う、北米型ER。米国での臨床経験を活かし、東京ベイ・浦安市川医療センター(千葉県浦安市、以下「東京ベイ」)で、この救急体制を築き上げた救急科の志賀隆部長に話を聞きました。
2012年の開院以降、救急車の受入数は着実に増加
―東京ベイの救急体制の特徴を教えて下さい。
志賀隆氏(救急科 部長)
ER型救急として1次から3次までの患者を受け入れています。2012年の開院から救急車の受入台数は着実に増加しており、現在は8600台(受入率95%)と千葉県でもトップクラスです。救 急科スタッフ6人、救急後期研修医15人が在籍し、変則3交代制を採って24時間対応しています。
初療を終え、入院やより専門的な診療が必要になった場合は、各診療科に引き継ぎますが、当センターは救急科、総合内科、一般外科、集中治療科がよく話し合ってつくり上げた病院なので、連携が取りやすいという強みはあると思っています。米国での臨床経験者が多く、北米型ER救急に対する共通認識がある程度出来上がっているというのも大きいでしょう。各科の連携によってスタッフが疲弊しないようにシステムを整えているのは、当センターの大きな特徴だと言えます。各科の担当分野が明確で、それぞれが力を発揮できる診療に「いいとこ取り」で注力できる環境は、勤務環境としても魅力的だと思います。
ER救急医は、パンダに似ている
―北米型ERを導入する上で難しいことはなんでしょうか。
志賀氏(救急科 部長)
一般的にはER救急医を採用することが難しいですね。
お酒を飲んで暴れているような患者さんや、診断のついていない重症患者さんが何人も運ばれてくる環境を好む医師は、あまり多くありません。
救急医自体が日本では人口に対して少ないですし、一口に救急医と言っても、日本では出身診療科が外科、脳外科、麻酔科、循環器科などさまざまです。得意な症例にも個人差がある日本において、「診療科や重症度問わず何でも診ます」というER救急医は、さらに珍しい存在です。
個人的に、ER救急医とは、絶滅危惧種のパンダのような存在なのではないかと思っています。誰も食べたがらないような「笹」をおいしそうに食べているパンダの様子は、他科が診たがらないような患者さんを積極的に受け入れるER救急医の姿にも似たものを感じます。
そうした中で、当センターはER型研修を行う医療機関の中では珍しく、後期研修医の入職倍率が1倍を超えている。つまり「パンダを選別している」という、全国的にも珍しい医療機関なんです。
救急医にとっておいしそうな「笹」を提供
―なぜ、東京ベイにはER救急医が集まるのでしょうか。
志賀氏(救急科 部長)
言ってみれば、当センターの「笹」が非常においしそうだからです。
「症例は多いが指導体制が整っていない」「指導体制は整っているが症例が少ない」という医療機関はとても多い。それに対し当センターは、「症例が多く、指導体制も整っている」。これが大きな違いではないでしょうか。
当センター ではACGME(米国卒後医学教育認定評議会)の6つのコンピテンシーに沿った研修体制を採り、指導医も揃っているので臨床技術はもちろん、プロフェッショナリズムやチーム医療など、救急医として欠かせない能力を確実に伸ばせます。このほか研究にも力を入れていて、毎週4時間は業務の一環として勉強時間も確保していますし、メーリングリストやFacebookなどで、新しい論文の紹介や意見交換を行っています。昨年は当科から、救急医学会に全国最多の32演題も提出しています。指導医層の医師から見ても、研修医の指導方法やマネジメントが学べる当センターの環境は、とても魅力的ではないかと思います。
日本の救急現場を変えるために
志賀氏(救急科 部長)
実は、わたしは米国に渡る時から、当センターのような病院をつくりたいと思っていました。この目標に向かって、5―6年かけて計画的にステップを踏んでレジデンシーやフェローシップといったキャリアを積んできましたし、帰国する2年前から、2000人規模の医療関係者のメーリングリストをつくって、協力者に声を届けられる環境を整えました。
どんな環境であれば他の医師の協力を得られ、日本の救急現場を変えられるような取り組みにつなげられるか―。ビジョンとやるきがあってこそチーム医療を中心とした急性期病院ができるのだと思います。
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