発足2年で60人の研修医 「米国式」取り入れた東京ベイの挑戦 -東京ベイ・浦安市川医療センターVol.1

米国での臨床経験を持つ日本人医師を招へいし、米国の医療現場の知見を活かした運営を進めているのは、東京ベイ・浦安市川医療センター(千葉県浦安市、以下「東京ベイ」)です。この特集では、「米国式」を取り入れ成果を上げている東京ベイの研修体制や各診療科の診療体制について、全5回にわたって紹介します。
1回目の今回は、同院の後期研修プログラムを中心に取り上げます。地域医療振興協会と野口医学研究所アラムナイの協力のもと策定した同院のプログラムには、開設2年で60人もの研修医が入職。「米国式」の特徴はどんなところにあるのでしょうか―。

夢は日本にメディカルスクールをつくること

―なぜ、米国式の研修プログラムを日本で立ち上げようと思ったのですか。

町淳二氏(JADECOM―NKP研修委員長)

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町淳二氏は野口医学研究所の理事長を務めた時期に東京ベイの研修体制を構築。現在はハワイ大学外科教授を務めるかたわら、東京ベイでJADECOM―NKP研修委員長を務めています。

「野口医学研究所アラムナイの豊富なネットワークを活かして何かできないか」と考えたのが発端です。

わたしがかつて理事長を務めた野口医学研究所は、これまで30年以上にわたって日本人医師を米国の臨床現場へと橋渡しし、約150人もの米国専門医を輩出してきました。しかし一方、「渡米して米国に順応した医師が、日本で活躍できる場が少ない」という課題もありました。日米では診療環境が異なるので、米国で学んだ技術や診療・教育スタイルが、日本で受け入れられないことがあるためです。

野口医学研究所の理事長に就任した時、私は米国での臨床経験を持つ日本人医師の知見を活かして、“何か大きな医学教育改革”をしたいと思いました。そのとき、将来的には米国式メディカルスクールを設立することを目標に据え、野口医学アラムナイや親しい医師にもかけ合って、日本に国際標準の教育が受けられる研修病院をつくろうと思ったわけです。

当時、東京ベイはちょうど、地域医療振興協会(JADECOM)が委託を受けて前身の浦安市川市民病院からリニューアルするタイミングでしたから、ゼロからプログラムを立ち上げるには格好の状況でした。研修体制を整えるために、病院の体制を根底から変えなければならない部分もあり、相応の投資が必要でしたが、JADECOMにこちらのコンセプトを理解していただき、東京ベイの後期研修プログラム「JADECOM―NKPプログラム」は実現しました。

-「米国式」の研修医教育の特徴は、どんなところにあるのでしょうか。

町氏(JADECOM―NKP研修委員長)

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東京ベイの入り口付近には、野口英世博士の銅像が置かれています。

大前提として米国の医療機関は、ACGME(米国卒後医学教育認定評議会)から認定を受けないと、研修病院になれません。「JADECOM―NKPプログラム」においても、この認定基準に則った研修を提供できるように体制を整えています。

ACGMEは、卒後臨床研修の基準を定めており、「その病院が本当に研修病院としての機能を備えているか」を3-4年間隔で定期的にチェックします。どんな有名病院であっても、研修の改善を怠れば次年から研修医が採用できなくなってしまうというくらい、ACGMEによる認定は絶大な影響力を持っているんです。米国の医師は、人種やバックグラウンドが多様だからこそ、医療が厳格な基準のもとでシステム化されているという背景があり、日本よりもシビアに教育のスタンダード化が図られています。

ACGMEが認めている研修制度の特徴には、大きく以下の2点が挙げられると思います。

ACGMEが定める研修の特徴【1】ジェネラリスト養成を背景としたカリキュラム

IMG_8168町氏(JADECOM―NKP研修委員長)

米国では、ジェネラリストとしての視点なくしては診療も教育も成り立ちません。

内科を例にすると、内科系志望のレジデントは3年間、総合内科の研修を受け、あらゆる内科疾患を診ます。もちろん対応できない時は、専門科にコンサルトしますが、専門科の医師はスペシャリストでありながら、レジデント時代にジェネラリストとして幅広い疾患を診ているので、専門外の疾患への診療能力は十二分に備わっています。こうした状況は、米国だけではなく欧州やカナダなども同様です。

ジェネラリストとしての視点を持つ医師は特に、離島やへき地でも大活躍できます。実はJADECOMが「米国式」の研修に関心を示してくれた背景には、「地方でも活躍できるジェネラリストを育てよう」というACGMEのマインドとの親和性が高かったこともあります。

ACGMEが定める研修の特徴【2】目標が明確であること

町氏(JADECOM―NKP研修委員長)

ゴールがはっきりしていなければ、研修内容の設定も改善も研修医の成長度合いの評価もできません。ACGMEでは、「医師に必要な6つの能力」をゴールとして定めています。

ACGMEが求める6つの能力(コンピテンシー)

1.患者のケア
2.医学的知識
3.自己研さん、自分で学習できる能力
4.対人・コミュニケーションスキル
5.プロフェッショナリズム
6.システム、リソースを活用して、効率よく安心安全な医療を実行する能力

米国の医師は、“上記の各能力をどこまで向上できたか”を医学生・研修医時代から医師人生において一貫してチェックされ続けられます。

「JADECOM―NKPプログラム」においても、上記6項目を柱にプログラムを組み、研修医の成長を測る指標にしています。日本でも、多くの医療機関において研修医の到達目標・ゴールは示されているはずでますが、日常的にどこまで認識され実践されているかはバラつきがあると思います。ゴールをはっきりさせて、指導医と日常的に振り返りを行いながらしっかりと評価・フィードバック・改善していくというモデルは、他の医療機関にもぜひ広めていきたいですね。

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