米国での臨床経験を持つ日本人医師を招へいし、米国医療の知見を積極的に取り入れている東京ベイ・浦安市川医療センター(千葉県浦安市、以下「東京ベイ」)。
同院の取り組みを紹介し、米国医療から何を学べるか考える本特集。第2回目は、藤谷茂樹センター長に、「米国式」導入の成果と、総合内科のホスピタリストを中心とした同院の体制面での特徴について聞きました。
後期プログラムには立ち上げ2年で60人の研修医
―米国式の後期研修プログラムの導入に、どんな成果を実感されていますか。
藤谷茂樹氏(センター長)
研修医の獲得に苦戦している医療機関が全国的に多い中、立ち上げ2年で60人の後期研修医を集められたことは、やはり大きな成果だと思っています。今では練馬光が丘病院にも研修医を派遣し、相互交流を図るなど、新たな展開も生まれてきました。
わたし自身も米国の臨床現場で働いてきましたが、米国のACGME(米国卒後医学教育認定評議会)の理念に則った屋根瓦方式の研修が受けられる医療機関は日本に珍しく、当センターは多くの研修医にとって貴重な存在なのだと、改めて実感しています。今の体制をつくるために、米国でわたしと一緒に働いてくれた指導医を招聘したほか、指導医を育成するためのプログラム開発も進めています。
チームで患者を診る体制を整え、勤務負担を軽減
―研修内容の整備とともに、病院の体制も大きく変わったと伺いました。
藤谷茂樹氏(センター長)
そうですね。東京ベイの前身である浦安市川市民病院は主治医制を採り、1人の医師が外来や救急、病棟管理など多岐にわたって参加していましたが、リニューアルとともにこれを改めました。救急科・総合内科・一般外科・集中治療科がそれぞれの機能に特化しつつ連携を取ることで、1人の患者さんに対してチームで診療をする体制へと変えたんです。
内科系患者さん の8―9割は総合内科で診療可能なので、医師の配置としては、総合内科の病棟専属医(ホスピタリスト)を多めに採用しています。
―ホスピタリストはどのように働いているのですか。
藤谷氏(センター長)
当センターの総合内科には最大150床ぐらい のベッドが割り当てられていますが 、この150床を1チーム3人の6チーム、計18人のホスピタリストが診ています。患者さんの症状は、循環器、消化器、呼吸器など様々ですが、ホスピタリストはこうした幅広い入院患者の病棟管理に専念して、必要に応じ、院内の専門医を含めた各部署 と連携を取ります。ジェネラルな領域の疾患への対応や当直、病棟管理は基本的にホスピタリストが対応するため、臓器別専門医は専門治療に専念できます。
当センターでは研修医の週の労働時間を80時間(当直含め)と決めており、それを逸脱しないようにするには、今のような仕組みが合理的だと考えています。主治医制を取ると、どうしても休みが取りづらいですし、休み中の急な呼び出しも避けられません。チームで患者さんを診ることで、個々の医師の負担を軽減できます 。 そして、ハンドオフ(引き継ぎ)をきちんと行う習慣が身につきます。
地域からの理解も徐々に
―現在の体制を整えるにあたり、苦労はありましたか。
藤谷氏(センター長)
苦労は多かったですよ。
新病院としてリニューアルしたのは良かったものの、当初、看護師採用は楽ではありませんでした。医師はいるのに看護師がいないので入院患者さんを受け入れられない状況が続いた時期は、とてもつらかったですね。また、これまでとは異なる診療スタイルを、地域の方に理解してもらうことにも苦労しました。
ただ、病院を立ち上げて2年以上が 経過した現在、実績に伴って、患者さんからの理解は深まってきていると思います。
特に総合内科が充実している当センターは、複数疾患を持つ患者さんに、とてもいい医療機関です。たとえば心臓血管外科の患者さんで、人工透析も受けている場合。透析患者は手術の合併症も起こりやすいですが、当センターではICUの専属医によるサポートが24時間受けられ、ICUで腎疾患も積極的に治療しています。もちろん、腎臓・内分泌内科からの専門的なフォローを受けることも可能です。強力な循環器科によるサポート体制は、当センターの目玉の一つとなっています。こう した背景のもと、心臓血管外科の患者さんの 紹介入院 がみるみる増えていきました。
救急科・総合内科・一般外科・集中治療科といった各科が一体となってチーム医療をしないと、 ジェネラリストを育成する当センターでは、患者さん受け入れが困難となり、経営的に破たんしてしまうと思っています。幸い、現在では病床利用率も90 %ほどに至ってきましたし、ICU(18床予定)、CCU/HCU(12床)も充実してきました。344床という規模でこれだけの手術を回せるのも、やはり新しい取り組みのおかげなのではないかと、手ごたえを感じています。
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