自分たちが黒船になったつもりで -東京ベイ・浦安市川医療センターVol.5

米国医療の知見を活用してゼロから病院体制をリニューアルさせた、東京ベイ・浦安市川医療センター(千葉県浦安市、以下「東京ベイ」)。米国から学ぶべきこと、日本が今後残すべきものについて、外科の岸田明博部長に聞きました。

「このままでは日本が取り残されてしまう」

―東京ベイの取り組みを推し進める原動力は何なのでしょうか。

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外科部長を務める岸田明博氏は、2014年4月から東京ベイに参画。米国で培った知見をもとに、これまで手稲渓仁会病院(北海道札幌市)の研修プログラムの策定などにも携わってきました。

岸田明博氏(外科 部長)

根底にあるのは、一種の危機感かもしれません。私は1983年に米国の医療現場に移り、「このままでは日本が世界から後れを取ってしまう」という思いをかみしめて、帰国しました。

日米双方の視点を持つと、「日本の医療の改善余地」を痛感する場面が数多く存在するんです。
特に教育に関しては、米国医療の方がはるかに優れたものを持っている。まだまだ「指導
医を見て覚える」という文化も根強い日本の研修医教育に対し、米国では「思考プロセスを徹底的に教え込む」という、教育技法が確立しています。
既にシンガポールでは、こうした米国の「いいとこ取り」を国策として推し進めていますし、韓国や中国、フィリピンなどにも、「他国から学び、自己変革していこう」というハングリー精神を感じます。ACGME(米国卒後医学教育認定評議会)基準を導入し、教育を変えていかなければ、日本は10年後には東南アジアからも取り残されてしまうという危機感があります。

町淳二氏(JADECOM―NKP研修委員長)

「このままでは日本が世界標準から遅れてしまう」と感じた象徴的な出来事が、いわゆる“ECFMGの2023年問題”です。米国外の医学部卒業生が米国で研修をするには、ECFMGという機関からの認定が必要になりますが、そのECFMGが「2023年以降、WFME(世界医学教育連盟)(あるいは米国のLCME)の基準で認証を受けた医学部の卒業生以外、受験を認めない」と2010年に発表したんです。これは6年制医学部である日本では2017年度の入学生から適応されることになり、数年先の問題となります。

IMG_8178現在、日本にはWFME認定医大が一つもありません。

つまり、このままでは2023年以降に日本で医学部を卒業しても米国の研修や医療現場で活躍することができなくなってしまう。これは、日本のガラパゴス化がさらに進展してしまうことを意味します。

前述のECFMGの発表があった際、日本ではさぞ大きな問題になるだろうと推察しいたのですが、他の外国と比べ思ったほどではありませんでした。その事実が、我々にとっては衝撃でした。さすがに最近は各医学部が危機感を持って教育改革に取り組んでいます。

言ってみれば、日本は鎖国状態で、黒船が来ない限り開国しない状態なのだと思っています。まだまだ課題もありますが、自分たちが黒船になったつもりで、東京ベイの教育プログラムを運営しなければならない。そう考えています。

日本の医療が「残すべきもの」と「変えるべきもの」

―他国の良いところを取り入れていかなければならないという危機感の一方で、「日本の良さ」として残すべきものはありますか。

岸田氏(外科 部長)

もちろん、米国がすべて良いわけではありません。日本の方が良いこともたくさんあります。国民皆保険制度のもと、安い医療費で平等に医療が受けられる環境は、残すべきだと考えています。

そして、「自分の患者さん」と現場の医療者の姿勢も、失ってはならないと思います。日本には、1人の医師が主治医として患者さんに寄り添いながら医療を提供してきたという伝統がありますが、米国では、1人の患者さんに複数の医師が携わるため、「この人は自分の患者さんだ」という、医師1人ひとりの意識が残念ながら薄れてきていると言われています。当センターにおいても、この点については十分に気をつけなければならないと感じます。

「日本の医療界は、世界から学ぶ姿勢を怠ってきた」

岸田氏(外科 部長)

IMG_8321戦後、日本の産業界は世界に目を向けてたゆまぬ努力を続け、世界をリードする立場へと成長を遂げることができました。しかし、医療界はどうか。特に医療提供体制の面においては、世界から学ぶことを怠っていたのではないでしょうか。

新医師臨床研修制度ができたことで、日本の医師のキャリアや考え方は変わりました。若い医師は、従来の卒後研修の限界を敏感に察知していると思います。日米の医療にはそれぞれ良いところ・悪いところがありますが、「双方のいいところをいかに取り入れて、改善を図っていくか」という視点を持つところから、スタートしなければならないと思います。

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