医師の早期離職を防ぐには、入職“前”の〇〇が重要だった!―医師定着コンサルタントが語るvol.1

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「せっかく採用した医師が、もう辞めてしまう」「面接時に期待していたほどのパフォーマンスを発揮してもらえない」――。医師の採用について、こんな悩みを抱える医療機関は少なくないでしょう。医療機関の医師定着を支援するエムスリーキャリア・山本千尋氏は、「新任の医師が職場に早く溶け込み活躍するには、入職“前”からの対策が不可欠」と話します。具体的にどのような対策が必要なのでしょうか。

目次

新型コロナ流行以降、医療機関で高まる“離職防止”の意識

――医療機関で、医師の定着支援・離職防止が注目されていると聞きます。どのような背景があるのでしょうか。

まず議論の前提として、採用後の定着というテーマを世界的な流れから見てみますと、スタッフの離職防止と即戦力化を目指す取り組みは、「オンボーディング」とも呼ばれ、アメリカが発祥です。転職を重ねながらキャリアを形成する文化ですので、中途入社者が重視されており、優秀な人材の流出を防ぐためにこのような施策が発展してきました。日本でも、少子・高齢化、人口減が進む中で、最初はホワイトカラーの業界で重要性が認識され、施策に取り組む企業が増えてきました。人事部門のミッションは優秀な人材の採用だけでなく、「採用したスタッフが、組織が期待するパフォーマンスを早期に発揮でき、長く勤められるようにすること」にシフトしてきているのです。

最近は医療業界でも医師の定着支援が注目されていますが、それには3つの背景があると思っています。

1つ目は、「医師の早期離脱により、残されたスタッフへの負担が増大していくことへの懸念」です。
ほかの職種に比べて、医師の採用は人材不足や待遇などの面からハードルが高いと言われています。入職した医師が定着することなく、早期に去っていくという出来事は、現場の疲弊にじわじわとつながっていきます。
医療機関が現場のことを真摯に考え、せっかくの医師採用がマイナスの影響を及ぼすという事態を回避するために、対策を講じ始めているのだと思います。

2つ目は、「新型コロナウイルス感染症の流行により、現場の負担増や経営の悪化が顕著になっており、医療従事者が離職を考えやすい環境になってきていること」です。現在、医療機関では、「離職対策や定着支援をしなければ、他の医療機関に優秀な医師が流出していってしまう」という危機感が高まっているのです。実際、医師については、働き方や勤務先への不信感などを理由に、退職を検討し始める動きが顕在化しています。医師人材紹介サービスを提供するエムスリーキャリアにも、新型コロナ流行以降、転職を希望する医師からの相談が例年同時期よりも増えています。
今後、新型コロナが終息したとしても、同じような不測の事態が起こったときに、医師の入職時には想定していなかった働き方や業務になることは、十分考えられます。そんな時こそ、勤務先と医師との信頼関係の構築など、それまでの定着支援の取り組みや、離職対策が重要になるのです。

3つ目は、「チーム医療の意識の広がり」です。近年、医師が個々に動くのではなく、ほかの医師や他職種とチームとして連携する医療の重要性が認識されています。医療機関にとっては、採用した医師が、いかに早い段階でチームに溶け込んで、活躍できるようになるかが、病院運営の上でも重要になりますし、入職した医師にとっても、周囲から協力を得られる環境をどう作り上げていけばいいのかは大きな関心事になってきていると感じます。

医師の離職対策について問い合わせる

医師の定着しない病院で起きている4つの問題

――医師の定着しない病院では、どのような問題が起きているのでしょうか。

弊社では早期離職に着目して、入職後、医師に勤務状況のアンケート調査を実施しています。その調査結果から、医師が不満や不安を抱いたポイントを大まかに4つに分類できることがわかりました。
それが、
(1)入職後のイメージの不一致
(2)医療機関から入職者への期待の不一致
(3)入職前に合意した事項の不履行
(4)入職前の医療機関の対応の不備や準備不足―です。
具体的にどのようなことかお伝えします。

(1)入職後のイメージの不一致

  • ハード面がイメージと異なっていた
    (設備が全体的に古い、必要な機器がそろっていない、使いこなせない機器が多いなど)
  • ソフト面がイメージと異なっていた
    (医師・看護師のスキルや危機管理意識が低い、周囲のスタッフのモチベーションが低いなど)
  • 診療以外の業務がイメージと異なっていた
    (書類の作成が多い、院内の独自のルールが多いなど)
  • 診療レベル・診療方針がイメージと異なっていた
  • 診療面でのリスク管理の不備や不足があった

(2)医療機関から入職者への期待の不一致

  • 医療機関にとってようやく採用できた診療科だったため、医師への期待感が大きすぎた
  • 医療機関が入職者の専門外のことを多く求め、医師の希望する診療ができなかった
  • 「実績やキャリアを軽んじられた」と医師に感じさせるようなコミュニケーションが行われた

(3)入職前に合意した事項の不履行

  • 研究日や当直日を病院都合で合意なく変更された
  • 面接時には話に上がっていなかった夜診や残業を一方的に依頼された
  • 学会への参加や外勤など、許可されたことが実際には行えなかった
  • 設備投資など面接時に合意していたことを反故にされた

(4)入職前の医療機関の対応の不備や準備不足

  • 契約内容や事前合意事項が院内で共有されておらず、入職後にやみくもな提案が行われた
  • 入職前に依頼していたモノやコトが、入職後に準備できていなかった
  • 入職前のやり取りを行う中で、質問への回答にかなりの時間を要した
  • 採用が決まって以降、入職前まで連絡がなかった

これらを見ていただくと、入職医師が抱える不満の多くは、医療機関が入職前から調整したり、準備したりすることで解消することがわかるかと思います。

医師を採用するまでには、さまざまなご苦労があるかと思います。しかし、採用はゴールではありません。採用した医師に活躍していただく、長く働いていただくためには、むしろ、採用してから入職前までの期間に、何を、どこまでできるかがカギになります。

医師の定着・離職防止を相談する

医師定着への準備は、入職前から始まる

――医師の定着には、入職前までにできることがカギになるということでした。医療機関は具体的にどんなことをすればいいのでしょうか。

先ほど紹介した、「医師が不満や不安を抱きやすい4つのポイント」について、入職前から丁寧にケアすることが重要になります。

例えば、(1)入職後のイメージの不一致、(2)医療機関から入職者への期待の不一致―の2点については、双方がお互いを正しく理解していないことが問題の発端になります。入職前から、相互理解のための機会を持つことは非常に有効です。
また、(3)入職前に合意した事項の不履行、(4)入職前の医療機関の対応の不備や準備不足―の2点については、入職までに約束した内容を正しく把握し、迅速な対応をすることで回避できます。
(3)、(4)については特段スキルや経験は必要ないため、取り組んでいただきやすいと思いますが、特に(1)、(2)については医療機関様から、「何をどこまで聞いていいのか」「何をどこまで事前に伝えておくべきか」の判断が難しいという声を多々いただきます。そこで、聞くこと、伝えることのポイントをご紹介します。

「入職後のイメージの不一致」を防ぐためのポイント

まず、医師が「前勤務先と新しい職場の違い」を理解するためには、どんな情報が役立つか、ということを想像していきただきたいです。そして、その情報を入職前から入職直後というできるだけ早い時期に、医師に伝えてください。

必ず伝えていただきたいのは、以下の3点です。

  • 組織の風土や文化
  • 組織のキーとなる人
  • 業務上の暗黙のルール

この3つは、組織や職場によって異なります。医師が以前の職場と同じイメージのまま働いていると、いずれ壁にぶつかってしまい、不満や不安を抱く原因になりやすいです。
ただ、何をどこまで伝えればいいのかは悩むかもしれません。「この先生の経歴や以前の職場を考えると、うちの職場はこの部分が異なっているかもしれない」と想像し、情報提供や支援ができると理想的です。

例えば、急性期から慢性期に移るように病院機能が変わる場合や、勤務地が大きく変わる場合は特に注意が必要です。また、経験豊富なベテラン医師や、成功体験を積んでいる医師ほど、「過去の成功体験をそのまま当てはめようとして失敗する」ということが起こりえます。キャリアのある医師であっても「イメージの不一致」を防ぐようなフォローを意識していただきたいです。
特に、業務上の暗黙のルールについては、職場で活躍するために重要なことにも関わらず、事前共有されていないことが多いです。

具体的な例を挙げます。

その病院で今まで患者の受け入れをしていなかった領域の疾患について、入職したばかりの医師が、自身が得意とする疾患だったため、新たに受け入れを始めたいと考えました。早速、診療部長の了承を得て、受け入れを進めましたが、実はその病院では、新たな領域の患者を受け入れる際には、事前に看護部の合意を得ることが暗黙のルールとされていました。医師はそれを知らずに患者の受け入れを進めたために、現場の看護部の反発に合ってしまいます。このような経験をした医師は、「病院の成長を思ってしたことなのに」「前の職場では部長の了承さえ取ればよかったのに」と不満を抱くことになるのです。

この事例については、入職前は難しいと思いますが、入職後のできるだけ早い時期に伝えられていれば、避けられた事態です。

「医療機関から入職者への期待の不一致」を防ぐためのポイント

双方の期待を言語化しておくことが非常に重要です。
入職後に起きがちな、医療機関と入職医師の双方の不満をご紹介します。

医師:「もっと専門的なことができると思っていたのに、専門外の患者さんをこんなに多く診ないといけないなんて……」
医療機関:「予想していたペースで患者さんを担当してもらえなくて困っている」

このような状況は、残念ながら多くの施設で耳にします。
これは、業務や勤務に関する期待を“入職前に”“具体的に”会話していなかったからこそ、起こってしまう問題なのです。
医療機関が、組織のキーマンや意思決定プロセス、医師に対する期待を言語化し、伝えておくことで、医師は「この病院ではこのようにすれば、こんな活躍ができそうだ」とイメージしやすくなり、早期の活躍につながります。

次回は、医師が職場に定着するまでの4つのステップと、医療機関に入職後3カ月間で実施していただきたい定着支援施策をご紹介します。

【関連記事】
医師定着への4ステップと、入職後3カ月間の対策ポイント―医師定着コンサルタントが語るvol.2

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