先進的な医療体制・取り組みで地域に知られるA病院。強みを持ちながらも、九州という立地などの問題から、診療科によっては医師が充足していなかったといいます。病院運営のためにさらなる医師のリクルートが不可欠と考えた法人は、ある採用手法を新しく導入。東京勤務を希望していた医師の採用に成功します。急成長中の法人を支える採用担当者は、どのような戦略を描いているのでしょうか。1000kmの距離を超えた採用の、舞台裏に迫ります。
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【目次】
医師採用は、最も注力すべき経営課題
──貴院は設備・医療体制が充実していて、看板診療科の知名度も高い印象があります。明確な強みがある一方で、医師採用においてはどのような課題があったのでしょうか。
A病院 採用担当者:
前提として当法人は、医師のリクルートを最も注力すべき経営課題と位置づけて、採用活動に取り組んできました。医師の確保が、集患やオペの件数増加につながるからです。その結果、医師数は年々増加しており、採用活動が全くうまくいっていない、というわけではありません。ただし、法人の成長目標をふまえると、各診療科で医師が充足しているとはいえない。ボトルネックとしては次の2点と考えています。
ひとつは地理的な問題です。アクセス面は、転職時に求職者が重要視する項目の1つです。当院は九州に位置しており、しかも都心部からはやや離れています。都会で働きたい・暮らしたい先生にとってはマイナス要因になりえるでしょう。
もうひとつは、診療科によって医師一人あたりの処置件数が少ない点です。当法人は成長過程にあり、医師をまだ十分に確保できていない診療科では集患も限定的です。最初からある程度の症例数が担保されている環境を望む先生には、敬遠される要因になっているかもしれません。このため、医師数の少ない診療科ではリクルートにもやや苦労している状況です。
毎年増員を達成している担当者が考える、“採用に必要なもの”
──立地の不利もあって採用はやや苦労されていたのですね。紹介会社に登録中の医師へオファーを出せる『M3Careerプライム』(以下、プライム)を導入された理由を教えてください。
紹介会社や医師への認知度アップが期待できるからです。採用活動をしていて感じるのは、医師採用のためにはまず紹介会社に当院を知ってもらう必要があるということです。プライムは求職者一覧から先生にオファーを出すと、その先生の担当コンサルタントにオファーが届く仕組みです。オファーは、当院を知らないコンサルタントに認知してもらうきっかけになります。その先に、医師への認知度向上があるはずです。また、医師同士のつながりは強いですから、将来的には医師から医師への波及効果も見込めるのではと考えました。
そのため、オファー機能を積極的に活用しています。これまでに出したオファーは150件以上に上ります。一人でも運命の出会いがあればと思い、一件一件医師をイメージしながらオファーをしていた中、導入から5か月で循環器内科の先生1名を採用することができました。
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1000㎞の距離を超えた採用術
──ご入職される先生は、もともとは東京で働くつもりだったと伺いました。採用成功の要因は何だったのでしょうか。
今回の先生は仕事のやりがいを最も大切にされていました。ちょうど下のお子さんが大学に進学されるタイミングということで、子育てが一段落したのでこれまで以上にやりたい診療に時間をかけていきたいとのことでした。そこで、当院が提供できる環境や循環器内科の重要性、今後のビジョンを盛り込んでオファーを作成しました。
先生も当初は、九州の医療機関からのオファーに戸惑われたようです。しかし、やりたい医療をできること、また地域医療へのご関心が高かったこともあり、面接の運びとなりました。当院にとってもぜひ招きたい先生でしたし、お互いの希望がうまくマッチする先生に出会えたことは幸運でした。
加えて、地方勤務への不安・懸念を払しょくするために待遇や勤務形態はなるべく先生の希望に合わせて調整しています。今回のケースでは、先生が単身赴任するとのことでしたから、土日に休めるような勤務形態や、帰省費の支給など、週末にご家族と過ごせるよう条件面は先生と相談しながら決めました。
──先生の優先事項に合わせて強みを打ち出し、弱みになりうる点はインセンティブをつけるなどオファー内容を工夫することで、成果に結びついたのですね。
転職時に何を重視するかは、先生によって様々です。プライムだと、求職者の一覧に「転職によって叶えたいこと」なども記載されているので、そうした情報をもとに一人ひとりの先生に合わせてオファー内容を作成しています。今回のように、先生の優先事項と当院の提供できる環境・がマッチしているとオファー内容から感じてもらえれば、他エリアの先生でも検討いただける余地はあるのかなと思います。
手前味噌かもしれませんが、当院は院長のリーダーシップや組織の風通しの良さ、充実した設備など、医療への情熱を後押しできる環境はある程度整っています。一度面接に来ていただければ魅力が伝わると思うので、「交通費・宿泊費は支給するのでまずは気軽に遊びに来てください」というメッセージもオファーに入れるようにしています。
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コロナ禍の逆風にあっても、「やるべきことをやる」
──面接の際にはどのような点を重視されていますか。
臨床スキルや診療内容の希望がマッチするかはもちろんですが、最近ではやはり人間性が重要だなと実感しています。病院組織には医師を頂点とするヒエラルキーが根づいてきたこともあり、中にはコメディカルとのコミュニケーションに支障をきたす先生がいます。そういう先生は、働いていただいている間も退職される際も、もめ事が絶えません。やっぱりチーム医療が重要なので、医療従事者の一人として、患者さんや地域のために周囲と協働する姿勢をお持ちかどうか、は非常に重視しています。医師の体制がある程度整ってきたからこそ、採用人数以外の評価軸も必要と感じますね。
また、面接は私たちが先生を評価すると同時に、先生が私たちを評価する場でもあります。当法人では、求職者の先生には院長と会っていただくことを大切にしています。院長の人柄や魅力、考え方に触れてほしいのはもちろんですが、どういう医療・働き方がしたいのかを院長に直接伝えてもらい、院長の反応から当法人とマッチしているか、先生ご自身に判断してもらいたいという思いもあるからです。
――医師紹介サービスは成功報酬型が多い中、M3Careerプライムは定額制です。抵抗感はありませんでしたか。
全くなかったと言えば嘘になりますが(笑)、ほしい診療科の先生を1名でも採用できるのならば、費用対効果としては悪くありません。既に1名を採用できただけでなく、今後も面接予定が複数入っています。オファーをきっかけに成果が生まれているので、各科で充足するまで有効活用していきたいです。
──最後に、医師採用担当者として意識していることを教えてください。
「やるべきことを地道にやる」。この一言に尽きると思います。当院の医師採用は専任担当者がいませんし、すごく経験豊富なスタッフがいるわけでもありません。医師採用のための裏技は持ち合わせていないけれど、だからこそ、できることを一つ一つこなしていく重要性を感じています。新型コロナウイルス感染症の流行拡大で、医師採用にも逆風が吹いていますが、「やるべきことをやる」というスタンスを崩さず、採用活動により注力していきたいです。
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