地域包括ケア病棟の導入、2つのメリット―専門家に聞く導入事情

地域包括ケア病棟は2014年度に新設されて1年間で届出が1000施設以上。新設から3年が過ぎた今も、未だ導入を検討すべき病院は少なくないようです。エムスリーキャリアで導入サポートサービスを担う福田陽子氏に導入事情を聞きました。
(※「地域包括ケア病床 導入・転換支援サービス」についてはコチラ

地域包括ケア病棟とは

―まずは、地域包括ケア病棟について教えてください。

地域包括ケア病棟とは、新型の病棟タイプで、2014年度の診療報酬改定で導入されました。導入された背景には、地域包括ケアシステムの合い言葉「施設から在宅へ」の実現があり、地域包括ケア病棟には病院と在宅をつなげる役割が求められています。具体的には、在宅患者の病状が悪化した場合の「在宅からのサブアキュート」、急性期病棟で容態の落ち着いた患者を受け入れる「急性期からのポストアキュート」、そして「在宅復帰支援」の3つ。

病院経営の視点からは、患者様あたりの日当点を高めたり、稼働率コントロールを容易にしたりする意義が大きい病棟といえます。この新病棟ができて以来、全国の病院では、10対1一般病棟などから転換する例が数多く見受けられます。

―地域包括ケア病棟ができてから3年が経ちました。導入メリットのある病院はおおむね導入を終えているのでしょうか。

実はそうでもありません。当社の導入検討セミナーには今でも病院経営に携わる方々がいらっしゃいます。参加した院長先生や事務長からは「1年以上前から検討中」といったお返事をいただくこともあり、新しい制度に対して慎重になっているようです。

【転換メリット1】1病棟転換で年間1億円超の増収も

―どのような病院が導入を検討すべきなのでしょうか。

検討すべき病院の特徴はいくつかあり、どれか一つでも当てはまれば導入を考えてみるべきです=下表=。

(1)地域包括ケア病棟入院料1(=2,558点)よりも、入院単価が低い
(2)手術件数が少ない(年間100件以下)≒ 重症患者が少ない
(3)病床稼働率が低く、許可病床数の70%以下である
(4)連携施設を確保できていない≒患者様や近隣施設から評価されてない可能性がある
(5)在院日数のコントロールに苦労している
(6)介護療養病棟など、今後の展開が不透明な病棟を抱えている

―転換するとどのようなメリットを得られますか。

主なメリットは2つあり、分かりやすいのは増収です。
導入例として多い10対1一般病床からの転換ですと、1床あたり1日5000~8000円アップが見込めて、20床で年間6000万円、1病棟なら1億円超の増収もありえます。当社がこれまでお引き受けした転換シミュレーションでは、増患せずに、現状の患者層と人数でも増収する試算になることが多いです。

増収1億円近くですと、優秀な医師を1名採用するのと同等の収益インパクトがあります。しかも、地域包括ケア病棟への転換の場合、届出さえすれば確実に増収を実現できる点は見逃せません。

【転換メリット2】職員のマインドが前向きに

―もう一つのメリットは何でしょうか。

職員が業務改善や経営改善に前向きになることです。これは増収のメリット以上に、病院にとってプラスになることだと考えています。

プロジェクトが進むにしたがって、看護師から「調べたら、わたしの病棟では他にもこんな加算が取れそうなのですが…」といった声が出るようになった病院もあります。なぜこのような現象が起こるか不思議に思われるかもしれません。どうやら、導入プロジェクトに各種部門がかかわって現場目線、経営目線でディスカッションすることが影響しているようです。

―どのような部門がプロジェクトにかかわるのでしょうか。

地域包括ケア病棟には、さまざまな施設基準や人員配置基準があります。たとえば、リハビリ部門では1日平均2単位以上のリハビリ提供が必要となり、医事部門ではデータ提出加算の届出が求められます。もしも地域包括病棟入院料1、地域包括ケア入院医療管理料1(以下、地域包括病棟入院料1等)を算定するなら、在宅復帰率7割以上が求められ、医師や看護師、地域連携室などの連携も不可欠となります。

基準をクリアするために、各部門の責任者か主任クラスにプロジェクト担当になっていただきます。はじめこそ「よく分からない」とおしゃっていた担当者が、3か月後にはご自身の部門に施設基準の詳細を教えたりできるようになっていて、私も驚かされることが多いです。

院内の反対は、患者を思うからこそ

―地域包括ケア病棟ができて3年以上が経った今も、導入を検討している病院があるということですが、導入に至っていないのはなぜでしょうか。

旗振り役がいないのです。院長先生が導入自体には前向きでも、「看護部門が反対すると思う」「医事課にデータ関連で強い人材がいない」ということで、頓挫しているケースが多々あります。

―実際、院内から反対はありますか。

ありますね。特に看護部門が消極的なケースは目立ちます。しかし、それは患者さんと接する最前線部門だからこそ。新しい試みによって患者さんへ悪影響が及ぶことを心配しているのです。ですから、丁寧に説明すれば、転換への理解を深めてもらえることが多いです。

例えば、わたしが担当するとある病院では、転換プロジェクトを通じて看護部長から信頼してもらえたのが嬉しかったですね。その方は転換に消極的な方だったのですが、お話を伺ってみると、実は常勤医師の間でベッドコントロールに対する考え方にばらつきがあるため前向きになることができないのだと判明しました。ベッドコントロールは地域包括ケア病棟の運用でキーとなりますから、その病院では常勤医1人1人とお話をして、共通認識をつくりました。すると、医師の動きにも変化が生まれたのです。この結果を見て、看護部長から「あなたが来てくれてよかった」と感謝していただくことができ、転換への理解も得られました。

目先の利益にとらわれない長期的視野を

―転換を進めるにあたって気を付けるべきポイントはありますか。

何のために導入するのかという“初心”を忘れないことです。
導入メリットの一つとして増収を挙げましたが、これはあくまで一つの効果に過ぎません。それよりも、2025年やその先にあるべき病院像を描き、そこから逆算して地域包括ケア病棟が必要かどうかを考えるべきではないでしょうか。

たとえば、ある僻地の病院は、在宅復帰できない患者さんや独居老人も多い土地柄で、将来的には医療より介護のニーズが高まると推測していました。院長先生は「このまま急性期に比重を置いていたら、地域の困っている方々を救えなくなる」と考え、介護サービスの展開資金を得ようと、地域包括ケア病棟への転換を進めています。その病院にとって、地域包括ケア病棟はあくまで通過点というわけです。

初心を忘れないという意味では、転換プロジェクトを6ヶ月程度で完遂させることも重要です。1年以上も経てば、スタッフが疲弊しますし、病院を取り巻く状況も変化します。そうすると、当初の目的を見失ってしまう可能性が出てきます。

運用を意識した導入サービス

―エムスリーキャリアで提供している転換支援サービスはどのようなものなのでしょうか。

実績準備から届出、その後一定期間のアフターフォローまでしています。具体的には、どのような患者様を地域包括ケア病棟に割り振るのかというガイドラインの作成や院内調整を含めたプロジェクト運営のサポートなどです。時には、在宅復帰率を上げるための逆紹介先確保もお手伝いしています。

特に当社の強みは、元々医師や薬剤師などの医療職と医療機関のマッチングを得意とするグループですから、各職種の考え方をよく理解した上で現場メンバーのコミットメントを引き出せる点です。

地域包括ケア病棟の導入は、病院全体に影響する一大プロジェクトです。経営分析や届出だけでなく、導入後の運用も見据えた全体への目配せが必要です。ですから、現場職員の方々とも何度もお話しますし、調整にも乗り出します。

また、もしも人員が足りない場合は、当社グループからご紹介することもできます。

―導入を検討している病院の方々にメッセージをお願いします。

転換をサポートしてきた私から、院長先生にぜひともお伝えしたいことがあります。それは、「もっと自院のスタッフに期待をしてほしい」ということです。導入の一歩手前でためらう院長先生からよくお聞きするのが「職員たちが前向きじゃない」「当院の職員たちには荷が重い」といった言葉です。しかし、院長先生が「責任はわたしが取るから、やってくれ」と言えば、職員は信頼に応えてくださるものです。

地域包括ケア病棟の導入は、動き出そうとする意志が大事です。もしも二の足を踏んでいる院長先生がいたら、ぜひ職員を信頼してあげていただきたいです。

地域包括ケア病棟の導入Q&A

―導入のデメリットはありますか。

特筆すべきデメリットは特にありません。地域包括ケア病棟は受入れ対象の疾患に制限がないため、「全く運用できない」という失敗は起こりえないのです。但し、効果を最大化できていない事例は散見されます。職員が地域包括ケア病棟の役割を十分に理解できないまま導入され、患者さんの入院を敬遠したりして稼働率が高まらないケース等はあります。

―地域包括ケア病棟入院料1等の施設基準「在宅復帰率7割以上」がクリアできていません。届出をあきらめるべきでしょうか。

あきらめる必要はありません。まずは、近隣施設にヒアリングして、どうすれば受け入れてもらえるかを探ります。当社にご相談いただく病院にも70%未満の病院がありましたが、ヒアリングと改善を重ね、届出時には達成することができました。

―回復期リハビリテーション病棟との違いは何でしょうか

経営的な視点ですと、地域包括ケア病棟には対象疾患の制限がないのに対して、回復期リハビリ病棟には制限があります。対象疾患の患者さんを十分に集められるルートがある場合には、回復期リハビリテーション病棟の方を始めた方がよいと思います。より高い点数が設定されているためです。

【累計参加800名突破】病棟転換セミナーを無料開催中

毎月、よくある悩みに応じたテーマを設け、セミナーを開催しています。本ページにて記載のトップコンサルタントが実際の事例をもとに、地域包括ケア病床を徹底解説。その場で無料相談も承っております。セミナーの内容・お申し込みはコチラ

■こんな方におすすめ
・まずは簡単な情報収集をしたい
・自院の目指すべき方向性を検討したい
・プロジェクトの実行について事例を聞いてイメージを持ちたい
福田陽子(ふくた・ようこ)
エムスリーキャリア株式会社 経営支援事業部
病院経営支援グループ ビジネスディレクター早稲田大学卒業後、複数の業界において新規サービス開発や経営改善に従事。その後、エムスリーキャリア株式会社へ入社。現在は、僻地から都市部まで全国の医療機関様に対し、医師採用や病棟再編などのご支援を行う。「圧倒的なスピードと分かりやすさ」のあるご支援に定評がある。

関連記事

  1. 日本経営・兄井氏

コメント

コメントをお待ちしております

HTMLタグはご利用いただけません。

スパム対策のため、日本語が含まれない場合は投稿されません。ご注意ください。

医師の働き方改革

病院経営事例集アンケート

病院・クリニックの事務職求人

病院経営事例集について

病院経営事例集は、実際の成功事例から医療経営・病院経営改善のノウハウを学ぶ、医療機関の経営層・医療従事者のための情報ポータルサイトです。