最高の経験ができた日本滞在


著者:ハンス ジェスパー デル ムンド
日本語訳:石川 甚仁、松本 直子
(このエッセイは筆者が2017年の夏、日本に滞在していた際に執筆された。MRIC Globalより転載。)

2018年2月28日MRIC by 医療ガバナンス学会 発行

私は22歳で、フィリピン大学マニラ校医学部の新4年生です。医学を専攻するに先立ってフィリピン大学公衆衛生学校の学士プログラムを卒業し、臨床検査技師としても登録されています。父は海洋技術者で、母はビジネスに携わっています。私は4人兄弟の長男で、フィリピンのマニラの北部に位置するキリノ州の小さな町、マデラ出身です。
現在、私は東京慈恵会医科大学の血管外科において、一ヶ月にわたり、短期研修プログラムを受講しています。日本の病院がどのように運営されているのか、また、日本の医師、看護師、その他の医療従事者がどのように協力しながら働いているのか学ぶために、今回、ここ日本を選ぶことにしました。日本に来て感銘を受けたことは、街の清潔さ、時刻表通りの交通機関、お会いした方々の誠実さと優しさです。また、これだけ近代化と技術が進んでいるにも関わらず、自国の文化を上手に残していることにも驚きました。

この滞在中、私は樋口朝霞さんにお会いしました。来日の1ヶ月前に友人のベルナデット ジョイ アルミロルに紹介してもらっていたのです。樋口さんは看護師であると同時に、医療ガバナンス研究所(東京都港区)の研究者でもあり、私の滞在中に、研究室の同僚を紹介してくれました。彼らは、とても優しく寛容でした。私はフィリピンの医療制度について講演をし、制度や社会事情の、フィリピンと日本における共通点と相違点について議論しました。

慈恵医大病院での研修は、驚きに満ちあふれ、忘れることのできない経験となりました。私と同じように日本の医療を学ぶためにプログラムに応募して来た様々な外国人学生と出会いました。プログラム期間中、私は主に血管外科部で過ごしましたが、そこの医師たちは皆思いやりがあり、とてもよくしてくれました。彼らは常に英語で話しかけようと努力をして下さり、手術中には英語に訳しながら説明をして頂きました。全体として、全く異なる環境にある病院、さらにはそこで働く医療従事者と触れ合うことができたのは素晴らしい体験でした。

東京慈恵会医科大学滞在中、私は手術の見学と助手として手術に参加するために多くの時間を手術室で過ごし、回診にも参加させて頂きました。日本語を理解できない私にとって、病棟回診においてどのようなことが話されているのか理解することは、とても難しく感じました。このような言語の壁はありましたが、医師たちが患者さんに思いやりを持って接しているのは容易に読み取れました。私見ではありますが、慈恵医大病院では、病棟での患者さんのプライバシーをより重視し、快適なベッドを提供しており、私の知る故郷のフィリピン総合病院(PGH)との違いを感じることができました。たとえフィリピン総合病院がより今までよりも多くの医療サービスを患者さんに提供できたとしても、現在のフィリピンのシステムでは、最適かつ効率的な医療の提供はできないと思います。

医療者が自分で手術着や手術室用の靴、手術帽、医療器具さえをも用意しなければならないフィリピンのPGHとは違って、慈恵医大においては病院で揃えてもらえるので病院の資材など心配はありませんでした。慈恵医大は技術の面でも進んでいます。例えば、静脈瘤の治療では、PGHにおいては未だに静脈のストリップを行っていますが、慈恵医大においてはレーザー治療を行います。最も重要なことは、慈恵医大で行われる手術のほとんどが合併症を引き起こさないように十分に考慮して手術が行われているのに対し、PGHでは一般に合併症を治療するために手術が行われているのです。この理由は、慈恵大病院は日本という先進国の、病院であるのに対し、フィリピン総合病院は、フィリピンという発展途上国の病院であることが理由に挙げられます。この大きな違いはありますが、それぞれの病院において、それぞれの規則と労働倫理に基づき、患者教育を重視し、最善の治療を提供するという点では同じです。

また、立川にあるナビタスクリニックを訪問し、著名な内科医でいらっしゃる久住先生の外来の見学をさせて頂きました。閉塞性睡眠時無呼吸症や甲状腺機能亢進症、脂質異常症などの多くの症例を見学しました。中でも驚いたのが、診察の迅速さとオンラインの診察予約システムです。また、ナビタスクリニックの立地と診察時間はとても利便性に優れ、働く人々のニーズに応えていると感じました。また、日本人のほとんどが国民皆保険という制度により、自己負担額が少額で、全く払う必要がない時さえもあると知ったのはとても驚きました。フィリピンもいつかはこのような水準の医療サービスを提供でき、人々の自己負担がなるべく少なくなるような医療制度にたどり着けるよう願うばかりです。ナビタスクリニックにおいては、日本で外来診療がどのように行われるのか見学することができ、慈恵医大での経験とは大きく異なるものでした。その意味で、ナビタスクリニックを訪問できたのは、本当に良かったと感じています。
(MRIC by 医療ガバナンス学会より転載)

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