徳洲会グループの中でも全国トップクラスの救急受け入れ実績を誇る湘南鎌倉総合病院(658床)。ところがその実績とイメージは、内科系の医師採用を阻む原因にもなっていたそうです。がん診療の先端医療センター開設に向け、内科系医師の確保が急務となる中、ある手法を取り入れて2か月で2名の先生のスピード採用に成功しました。医師採用の舞台裏や今後目指す病院像について、院長代行の小林修三先生に伺いました。
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目次
- 救急受け入れ全国トップクラスの病院が、内科医拡充をはかる理由
- 救急病院のイメージが採用の壁に
- 要件に合う先生にアプローチすることで、採用スピードも向上
- 入職後に活躍してもらうには、リーダーによる定着支援が重要
- 救急の“後”を支え続けられる病院に
救急受け入れ全国トップクラスの病院が、内科医拡充をはかる理由
──内科医師の体制強化を図っていらっしゃると伺いました。その背景について教えてください。
医療の入り口としての診断という観点からも、また外科的治療の後のことを考えても、「弱者を置き去りにしない」という当法人のスローガンを実現するためには内科医の充実が不可欠です。
私は内科統括部長として当院に入職した2010年から、総合内科医および各サブスペシャルティの医師確保に努めてきました。2017年に院長代行に就任してからは、当院の次の挑戦である“包括的ながん診療”を実現するための診療体系づくりに注力しています。2021年4月には最新のがん診療・ケアを行う先端医療センターをオープン予定で、2020年に保険適用されたばかりのBNCT治療システムも導入します。オープンに向けて、がんを扱う内科領域の先生の確保が喫緊の課題でした。
救急病院のイメージが採用の壁に
──貴院は知名度も高く、診療体制や職場環境の整備にも力を入れています。「働きたい」という先生は少なくないのではないでしょうか。
自己応募も一定数いただくのですが、当院へのイメージが固定化されている先生方も多く、特定の領域においては採用が思うように進んでいませんでした。
当法人は「救急車を断らない」を基本方針として掲げています。この理念は医療の原点であり、非常に大切なことです。しかし一方で、救急病院としてのイメージが強いがゆえに、「湘南鎌倉の内科は、広く浅くカバーする総合診療的な役割なのだろう」という認識につながってしまっていました。
たしかに、幅広い領域をカバーし各科への橋渡しを行うゲートキーパーも内科医の役割です。ただ、もう一つの役割として、ゲートキーパーからパスを受けた後、特定の領域における専門家として診療にあたることも質の高い医療には必要です。
当院としては、救急車を受けるだけではなく、その後に専門性の高い医療も行っていること、しかしまだ十分ではない領域があること、その穴を埋めるために一定の経験やマネジメントスキルのある先生にリーダーとして参加いただきたいという思いを求職者に発信していきたいのですが、なかなかうまくいきませんでした。
──貴院と求職者のニーズにズレがあり、なかなか採用に結びつかなかったのですね。
前提として、当院は特定の大学の関連病院ではないので医師の確保を医局派遣のみに頼ることはできません。また、新専門医制度が始まったことも医師確保を難しくしています。大学の関連病院で学ぶという流れが生まれ、地域の基幹病院を希望する研修医が減ったからです。
──初期研修は毎年フルマッチしていると伺いましたが、初期研修医の定着にも課題があったということでしょうか。
初期研修で優秀な先生が来てくださっても指導者層が不在では、キャリアや学習環境のことを考え大学病院に目が向くでしょう。若手の先生方が安心して当院に残り、学べる環境をつくるためにも、指導者層の先生を確保しなければなりません。
しかし、40・50代の中堅層の先生方にアプローチすること自体、簡単ではありません。この層に対していかに働きかけていくかを模索していたときに、要件に合う先生に能動的にアプローチできる「M3Careerプライム」(以下、プライム)と出合いました。
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要件に合う先生にアプローチすることで、採用スピードも向上
──導入の成果はいかがでしたか。
実は当初は、あまり期待していませんでした。「当院にマッチしていない先生をやみくもに紹介されるのでは」という懸念もありました。
しかし実際は、エムスリーキャリアの採用支援担当者が当院の思いを汲みながら、合いそうな先生を提案してくれます(※編注:フルサポートプランの場合)。このため、課題だった“当院の採用要件にマッチする先生へのアプローチ”が可能になりました。
「転職希望の先生の中に、マッチしそうな先生が想像以上にいる」というのも驚きでしたが、要件に合う先生にアプローチできるようになったことで、入職に至る確率・スピードが上がったことはプライム導入の大きな成果と言えるでしょう。結果として、導入2か月で2名の先生の採用に成功しました。先端医療センターの健診部門で勤務いただく予定です。
プライムでは事務部門だけでなく、私も情報共有を受けながら、求職中の先生方との条件調整をスピーディに進められるのが非常にやりやすかったですね。採用支援担当者の方に相談すればすぐに誠実な回答をもらえるという信頼関係が、採用活動を進める上で安心感につながっています。
入職後に活躍してもらうには、リーダーによる定着支援が重要
──採用の過程では、どのような点を重視されているのですか。
我々と一緒に新しいものをつくりたいという情熱を持ってくださっているか、を重視します。私が知りたいのは、これまでのキャリアよりも、未来に向けこの病院というステージで、スタッフと共に最高の舞台を作りあげたいという思いを持ってくださっているかどうかです。
もし興味はあるけれど不安があって踏み出せない、という場合はぜひ相談してほしいですね。たとえば、医師が一般病院への転職をためらう理由のひとつに「研究ができない」があります。しかし当院は隣接する土地に研究所を所有しており、動物実験なども行っています。臨床と基礎研究を両立できる環境が整っているのです。これは一例ですが、先生の「やりたい」を応援できるよう、柔軟な対応を行うことが採用活動において大切だと思います。
──その他、採用において工夫・意識している点があれば教えてください。
入職後に活躍いただけるよう、定着支援を重視しています。
具体的には、入職後のステップを具体的な期間とともに示しています。たとえば1年目はよく周囲を観察して組織になじむ、2年目は改善提案を行う、3年目は改善を実行していく……というように、ある程度長いスパンでフォローします。
大切なのは、こうしたステップや先生のご事情を、上司が組織内できちんと周知することです。トップが周囲に理解を促すことで、先生が安心して働ける環境を作ることにつながります。既存の先生・スタッフのやり方も尊重しつつ、新しい視点を取り入れる。その調和の過程をサポートするのが私の責任だと考えています。
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救急の“後”を支え続けられる病院に
──昨年(2020年)は新型コロナウイルスで社会や医療を取り巻く環境が大きく変わり、2021年の状況も不透明です。医師体制の整備への影響はいかがでしょうか。
当院は2020年2月に敷地内にプレハブで発熱外来を設け、PCR検査を実施するなど、積極的に感染者を受け入れてきました。実は法人内でも「風評被害につながる」と反対の声があったのですが、犠牲者を少しでも減らすためには早期発見、そのためにはPCR検査を行うしかないということで、実行に移しました。
結果的に、早期対応を行ったことで神奈川県と臨時病棟をつくるなどの動きにつながっていったのですが、稼働には医師が必要です。当初は院内で調整していましたが、コロナ禍の長期化に伴い対応しきれなくなってきました。半年でも1カ月でも構わないからコロナ対応にあたってくださる医師・スタッフを確保しなければと、医師会の先生や紹介会社、近隣のクリニックなどと連携させていただきながら、体制整備に努めているところです。
まだパーフェクトな体制とは言えませんが、問題から逃げるのではなく前向きに対峙する姿勢を最初から打ち出したことで、皆様からご協力いただけているのではと感じます。
──最後に、病院としてどのような姿を目指していらっしゃるのか教えてください。
医療には限界があります。もう手の施しようがない、という状況は時に避けられません。しかし、それでも「この病院にきてよかったね」と患者さんやご家族が言えるような場所でありたい。そのために、患者さんがどのような生活を送っていて、どのようなエンディングを望んでいるのか、に思いをはせる必要があるでしょう。
患者さんの人生の最期まで伴走するには、救急だけでなくより専門分化した領域までフィールドを広げ、終末期の医療までシームレスに行える病院であることが大切です。このため、当院ではわずかながら訪問診療などにも携わっています。
また、そうした医療を実践できる人材の育成にも注力していく予定です。2020年度には湘南鎌倉医療大学を開設しました。現在は看護学部のみですが、事務職員養成のため病院経営を学ぶ学部や、将来的には医学部の設置も目指したいと考えています。簡単なことではありませんが、“弱者を置き去りにしない”という法人のビジョンを体現する医師の育成環境を整えたい。そのためにも、当院で「新たな挑戦をしたい」という先生にぜひ参加いただきたいですね。
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