医師採用にマーケティング視点を!都道府県別の採用市場の調べ方とは

医師採用の成功率を要素分解すると、次のようになります。

アプローチできる医師の数 × 面接への遷移率 × 入職への遷移率

医師採用がうまくいかない場合、3つのいずれかを改善する必要があるということです。中でも、特に重要かつ難しいのが、「アプローチできる医師の数」を増やすことではないでしょうか。つまり、この母集団形成こそ、医師採用の要です。そして母集団形成のためには、まず自院の採用対象となる先生がどのくらいいるのか、採用市場を把握することが重要です。本記事では医師採用手法の最新の傾向と、各都道府県の採用市場データ、データの活用方法などをわかりやすく解説します。

目次

医師採用手法、最新の傾向は?

エムスリーキャリアが実施した調査によると、医師の転職経路は近年、図1のように変化しています。

図1 医師の転職経路(エムスリーキャリア調べ)

人材紹介会社(紹介会社)はエージェントが仲介する形で、医療機関に求職中の医師を紹介するサービスです。また求人広告とは、インターネット上に求人を掲載して求職者の直接応募を募るサービスです。

人材紹介会社の利用が2012年から2019年にかけ倍増していることがわかります。また、求人広告経由での転職も微増しており、医師が希望にマッチする転職先を自ら探す傾向が強くなっていると言えるでしょう。

医局人事による派遣や知人紹介は依然として重要な医師確保の手段です。一方で、そうした手段が活用できない医療機関では、新たな採用手法の導入が進んでいることが示唆されています。

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医師採用成功のポイントは、“採用市場の把握”

どんな採用手法を用いるにしても、実際に採用を成功させるのは簡単ではありません。そこで、おさえておきたいのが「そもそも自院の採用対象となる医師がどのくらいいるのか」「採用対象となる医師はどんな傾向にあるか」です。

たとえば、採用要件に合う医師が多数いるのに応募・紹介がないケースと、そもそも採用対象となる医師が少ないケースでは、とるべき対策が異なります。前者は求人の内容や露出方法を見直した方がいいでしょうし、後者であれば採用活動の対象を近隣エリアの医師のみでなく、日本全国に広げた方がいいかもしれません。

このように、採用市場の中の位置づけを理解しなければ、効果的な採用戦略は見えてきません。自院の採用難易度を把握し、採用活動の改善を図ることが重要と言えます。

調べ方には、次の2つがあります。
・人材紹介会社など、データの蓄積がある外部機関に問い合わせる
・公表されているデータから調べる
それぞれ、順番にご説明します。

調べ方1: 人材紹介会社など、データの蓄積がある外部機関に問い合わせる

前述したように、近年は紹介会社経由の転職が全体の約4分の1を占めるという調査結果もあり、求職中の医師を含めると相当なデータが紹介会社に蓄積されています。

こうした情報を持つ外部機関に問い合わせることで、実際にいま転職を希望している先生がどのくらいいるのか、という実態をつかむことができます。ご参考までに、エムスリーキャリアの新規登録医師・求人データ(2019年度)をもとに、都道府県別の採用市場の概況をご紹介します。

エリア内の求職中医師の多さ

まずは、各都道府県にどのくらい求職中の医師がいるのか、2019年度の実績から見てみましょう。エムスリーキャリアの常勤紹介サービスに登録した医師数を、全国平均を1とした場合の指数で表すと図2のようになります。

図2 都道府県別の求職医師の多さ(2019年度)

たとえば同じ関東でも神奈川県にくらべ栃木・群馬県は大幅に求職医師が少ない傾向にあります。後者の場合は、求職中の先生が多い地域や、「全国どこでも可」「転居可」という先生を対象とした採用活動が必要かもしれません。このように、まずはエリア内の求職中医師の多さを把握することが大切です。

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エリア内の求人倍率

採用の難易度は求職中医師の多さだけでなく、施設数にも影響を受けます。たとえ医師数が多くても、競合が多ければ採用は難しくなります。そこで気になるのが、求人倍率ではないでしょうか。

求人倍率は、求職者1人あたりの求人数を示します。高ければ高いほど医師にとっては選択肢が多く、施設にとっては医師採用のハードルが高いということです。エムスリーキャリアの求人・求職医師データ(2019年度)から算出したものが、図3です。

図3 都道府県別の求人倍率(2019年度)

たとえば埼玉県は、医師数こそ栃木県より多いものの、求人倍率が高く採用の難易度は高いと考えられます。このように、求人倍率を見ることでエリア内の採用の難易度がよりわかりやすくなります。求人倍率の高い地域で医師を確保するには、競合施設との差別化などの工夫が求められるでしょう。

エリア内の年収相場

医師採用を考える際に、求職中医師の多さと併せて把握しておきたいのが、エリア内の年収相場です。

職場に求める条件は医師一人ひとり異なりますが、競合施設よりも大幅に年収が低いとなると、そもそも候補に挙がることすら難しくなってしまうでしょう。特に若手の医師ほど、収入を重視する傾向にあるようです。

【関連記事】40代医師の65%が求める仕事観は?年代別アンケート

また、競合と差別化する上でも、年収は重要な要素の一つと言えます。エムスリーキャリアの紹介実績(2019年度)をもとに都道府県別の想定年収(平均額)を算出したところ、図4のようになりました。

図4 都道府県別の採用時の想定年収(2019年度)

これは想定年収を平均したものであり、診療科やエリアによっても傾向はあるので、あくまでも目安としてご参考ください。大切なのは、エリア内の相場を把握し、自院の求人の改善につなげることです。

このように、紹介会社は多くのデータを保有しているので、採用市場を把握したい場合には問い合わせてみると良いでしょう。コンサルタントの“肌感覚”程度であれば、無料で教えてもらえるでしょうし、企業によっては有償で精緻なデータを提供しています。たとえば、診療科×エリアを絞ったときの求職医師数はもちろん、直近1年間の転職件数/年収相場/その他条件面の相場/求職医師の年齢構成/転居可能な医師数といった、医師採用にデータを得ることも可能です。

注意点として、小規模な紹介会社ではn数が少ないため、データの内容に偏りが生じる可能性があります。信頼できるデータを入手するためには、なるべく医師の登録実績が豊富な紹介会社へ問い合わせることをおすすめします。

また、特定のエリアに強みを持つ紹介会社もあるため、自院のエリアに詳しい紹介会社を調べて聞いてみるのもいいでしょう。医師数が少ないエリアなら、医師多数エリアでの実績が豊富な紹介会社を探して、求人を預けてみるという選択肢もあるかもしれません。

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調べ方2:公表されているデータから、自身で調べる

また、公表されているデータからある程度の市場感をつかむことも可能です。リサーチの方法を簡単にご紹介します。

エリア内の医師の人数

まずは、医師数を調べます。厚生労働省が公表している「医師・歯科医師・薬剤師統計(旧:医師・歯科医師・薬剤師調査)」では市区町村別/年齢別や、専門医別の医師数といったデータを閲覧することができます(※)。採用したいエリア・診療科の医師が何名くらいいるのかを確認しましょう。次に、医療機関数を調べます。こちらも厚生労働省の「医療施設調査」で市区町村・二次医療圏別のデータを閲覧できます。

対象地域に絞って「医師数÷医療機関数=施設あたりの医師数」を割り出せば、全国平均・他エリアとの比較から、おおよその採用難易度をつかむことができるでしょう。

エリア内の年収相場

厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」に、職種×都道府県で給与データが公表されています。給与額は年単位で変動するため、数年分のデータの平均値を参照することをおすすめします。なお、より地域を絞って調べたい場合は、対象地域の医療機関の求人情報を調査する必要があります。求人サイトで地域・診療科で絞り込んで求人検索するなどの方法が考えられるでしょう。

上記でご紹介したのは、全医師を対象としたデータです。実際に求職中の医師の多さや、年収相場を知りたい場合は、前述したように紹介会社などへ問い合わせてみると良いでしょう。

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医師採用市場から、自院の課題が見えてくる

これまでご紹介したデータをもとに、医師採用市場における各都道府県のポジションをもう少し具体的に見てみましょう。求人倍率の高さ(≒採用難易度の高さ)を横軸に、採用時の想定年収の平均額を縦軸に各都道府県をプロットしたものが、図5(※)です。図をクリックすると拡大されるので、ぜひ自院の所在地がどこに位置しているか、確認してみてください。

※あくまでも2019年度のエムスリーキャリア紹介実績から算出したもので、全医師が対象の調査ではありません
※島根県・秋田県は除外

図5

それでは、採用市場の傾向ごとに特徴・対策をご紹介します。

高倍率・高給エリア(山形県、群馬県、新潟県、山口県など)

図6 高倍率・高給エリア

こちらは求人倍率が高く医師の年収も高いため、最も医師採用が難しいエリアと言えます。他のエリアよりもコスト・時間がかかる想定で採用活動を実施する必要があります。対策としては次のようなものが考えられるでしょう。

  • 競合施設の求人をふまえ、年収・勤務日数など条件を改善する
  • 転居費用や赴任手当、通勤費(特急・新幹線・高速代など)、帰省費の保証など、エリア外の医師を誘致できるインセンティブを設ける
  • スカウトなど、自ら求職中の医師にアプローチできる採用手法を取り入れる

なお、採用の対象地域を広げる場合は、(1)近隣県、(2)過去に採用できた県、(3)全国―という順番で拡大していくことをおすすめします。

低倍率・高給エリア(青森県、北海道、和歌山県、鹿児島県など)

図7 低倍率・高給エリア

こちらは求人倍率こそ比較的低いものの年収の水準が高いため、条件によっては採用に難航することが予想されるエリアです。高年収の提示が難しい施設にとっては、勤務日数やその他インセンティブなどで競合と差別化を図る必要があると言えるでしょう。

また、青森県や和歌山県などそもそも求職中の医師数が少ない地域では、倍率が低くてもタイミングによっては採用が非常に難しいケースもあるでしょう。この場合、高倍率・高給エリアと同様の対策が求められます。

低倍率・低給エリア(東京都、神奈川県、大阪府、福岡県など)

図8 低倍率・低給エリア

こちらは求人倍率・想定年収ともに低く、比較的採用がしやすいエリアと言えます。いわゆる大都市を擁する地域が多く含まれています。

このエリアでは、地域内の格差が生じやすい傾向にあります。都市部に求職医師の希望が集中するため、同じ都府県内であっても郊外では採用が困難というケースは珍しくないでしょう。そうした地域では、思い切って高年収を提示するなど、一定のコスト・工夫が求められることになります。

また求人倍率が低いとはいえ、都市部では施設数が多いため、いかに求職中医師の目を引けるかがキモとなります。以下の項目を参考に、まずは自院の強みを明確にして、求人・PRに盛り込みましょう。

<医師が転職で重視する項目>
・アクセス
・ワークライフバランス
・キャリア(スキル・経験・役職など)
・年収
・病院のビジョン

また、都市部では求職者の数が多いため、「候補者は多いが、要件に合う医師となかなか出会えない」というケースも少なくありません。候補者が多くても油断せず、採用したい医師のスキルなどを明確にした方が良いでしょう。

高倍率・低給エリア

こちらは求人倍率が高いものの、比較的年収の低いエリアです。ただし、本エリアに該当する代表的な地域はありません。求人倍率が高く採用の難しい地域なので、既に多くの施設が、一定以上の年収を保証するなどの努力をしていることが読み取れます。

まずは他のエリアと同様、自院の想定年収が競合の水準を下回っていないかを確認してみましょう。エリア内の水準をクリアしている場合も、求人倍率が高そうであれば、低倍率・低給エリアと同様に自院の強み・特色を打ち出す工夫が必要です。

マーケティング視点で採用戦略を考えることが大切

ここまでご紹介してきたように、医師採用は市場データをもとに、自院のポジションに沿った戦略を考えることが重要です。もし求人や条件の見直しにお困りでしたら、エムスリーキャリアでは採用支援担当者による無料相談なども実施しています。より詳細なデータに基づいてアドバイスをさせていただくことも可能ですので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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