病院の採用を考える~「どんな医師でも歓迎」の落とし穴~


医師採用が病院の収支に影響を与えることは分かりつつも、「求人票は出しているのに応募が来ない」と嘆いたり、「当院は立地が良くないから…」と諦めたりしている院長や事務長は少なくありません。しかし、「応募者の目線で考え抜けば、どんな病院でも応募数を増やす余地はある」と明言するのが、エムスリーキャリアの平田樹氏と柳牛寛行氏です。
今回は、全国の医療機関で採用窓口を代行し、人材紹介会社との折衝を行っているエムスリーキャリア窓口アウトソーシングサービスのお二人に、効果的な採用手法について話を聞きました。(所属は取材当時)

転職する医師が求める4大条件

―医師を採用できている医療機関とそうでない医療機関は何が違うのでしょうか。
平田樹氏:
「採用できない」にもいくつか段階があり、(1)応募がこない、(2)応募が来ても面接や採用に至らない(3)希望の医師が来ない-といったケースが挙げられます。この中で最も多いのが(1) 応募が来ない病院です。

―なぜ応募が来ないのでしょうか。
平田氏:
2つの理由が考えられます。転職する医師が求める4つの条件を押さえていないか、押さえていても差別化できていないかです。

医師の応募が来ない病院の特徴

・転職する医師が求める4大条件を押さえていない
・差別化できていない

転職する医師の多くは、(1)年収、(2)キャリア、(3)ワークライフバランス、(4)アクセス-の4つを求めます。この4大条件を求人票に明記していない医療機関は、できるだけ具体的に明記するだけでも応募数を増やせる可能性があります。

柳牛寛行氏:
ありがちなのは、年収を「1200万~2400万円」などと幅広く書いている求人票です。求人側の心情として、どんな医師が応募するか分からないのに年収を約束できないという思いがあるでしょうし、誠実な対応と言えます。しかし、年収2000万円を超えるのがどんな人物なのかと尋ねられたとき、答えられるでしょうか。

応募する医師の立場からすると、「家族がいるのに1200万円なのか1600万円なのか、それとも2400万円なのか分からないのは困る」といった声が挙がるのも自然なことだと思います。せめて、年収を決める基準は示したいところです。たとえば、年収の基準が年次なのか、オペ数も関係するのか、それとも別の要素も影響するのかといった具合です。さらに、「経験年数◯年の◯専門医は1400万~1600万円」といった例示もあると分かりやすくなります。

平田氏:
このように改善する余地は、他にもたくさんあります。ここで一点、誤解していただきたくないのは、4つすべてが好条件である必要はないことです。4つの配分を調整して、他院と差別化させることが大事なのです。

転職する医師が求める4つの条件

(1)年収
(2)キャリア
(3)ワークライフバランス
(4)アクセス

「どんな医師でも歓迎」は誰の心にも響かない

―差別化するにあたって、どこの医療機関を競合として意識すべきなのでしょうか。
柳牛氏:
それは、自院がどんな医師に来てほしいかによって変わります。たとえば、総合内科専門医であれば人数が多いので、二次医療圏内かもっと狭い範囲の医療機関と差別化すれば良いでしょう。ところが、もしも救急科指導医を採用しようと思えば、候補者は全国にわずか約650人 です。三次医療圏か、場合によっては全国規模で探す必要があります。

―とはいえ、医師の確保に難儀している医療機関からは「贅沢は言っていられない。医師が来てくれるならどなたでも歓迎だ」という声をよく聞きます。
柳牛氏:
たしかに、背に腹は代えられないといった声は多いです。そうした採用方針のおかげで地域医療が支えられている面もあるかもしれません。

それでも一考していただきたいのは、応募した医師が「どんな医師でも良い」という気持ちで採用されて、気持ちよく働けるかということです。一緒に働きたい医師像、つまり採用したい医師像を描くことと、選り好みすることは異なります。

採用したい医師像が定めた方が、先生方が求めるものもイメージしやすくなります。30代後半から40代の脂が乗った医師と、50代以降のベテラン医師では、仕事のステージもライフスタイルも違い、勤務先に求めるものも違うはずです。
逆に採用したい医師像が曖昧ですと、多くの求人サイトに求人票を載せたり、たくさんの紹介会社に声を掛けたりして数を打っても、当たりません。結局、応募数は低迷してしまいます。

だから、まずは採用したい医師像を明確にし、その医師が求めそうな条件を考えます。そのとき、年収、キャリア、ワークライフバランス、アクセスのどれに比重を置いて他院と差別化するかという視点が大事になるのです。

―実際、差別化できるものなのでしょうか。
平田氏:
私が病院に訪問させていただくと、ホームページや求人票に載っていない魅力がたくさん見つかります。新しい設備や、充実した福利厚生、スタッフの向上心を後押しするような制度、笑顔の多いスタッフさんたちなど、さまざまな魅力に出会います。

でも多くの場合、それらは院外にほとんど伝わっていない。とてももったいないと思うのです。実際、そうした魅力の伝え方を工夫して、1年間で採用面接ゼロだった病院が、半年間で2件の面接を組み、そのうち1人を採用できたケースもあります。

第三者だから気付ける魅力もあるとは思いますが、できれば病院の方々がご自身で気付いて、発信していただきたい。そうやって応募が来て仲間が増えると、本当に嬉しいと思います。サポートしている身の私ですら嬉しく感じるのですから。

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「紹介会社が医師を紹介してくれる」は間違い

―ここまで、差別化できていない求人では応募を期待できないというお話でした。それでは人材紹介会社のようにコンサルタントが医療機関と医師の間に入ってくれる場合はどうでしょうか。「求人票を預けたのにまったく紹介がない」という採用担当者の嘆きも聞きます。どうしたら紹介してもらえるのでしょうか。
柳牛氏:
「紹介会社に頼めば、自動的に医師を紹介してくれる」と考えるのは間違いです。

まず押さえておきたいのは、医師の採用市場が圧倒的な売り手市場であり、それは紹介会社でも変わらないという点です。私たちが扱っているだけでも、求人数は応募数の6倍以上で、医師一人を6施設が取り合っている格好です。しかも、紹介会社を利用する医師は一人あたり平均2~3社を使っています。

―医療機関同士、紹介会社同士での競争が生まれているわけですね。
柳牛氏:
こうした競争環境では、紹介会社のコンサルタントも必死です。医師の希望通りの求人を提案するか、あるいは、希望から多少外れていても薦めるに足る求人を提案しないと、医師は他のコンサルタントに乗り換えてしまうのです。

言い方を換えると、医師に求人提案できるだけの理由付け、つまり、差別化ポイントをつくり、それを紹介コンサルタントにアピールできれば、問い合わせ数が増えます。
どうしたら紹介してくれるかを考え抜くようにすると、結果は変わってくると思います。

差別化ポイントを採用につなげた事例

平田氏:
どうしたら差別化ポイントを見つけ出し、採用につながるのかイメージしづらい部分もあると思います。私たちが採用をサポートしたA病院の事例をご紹介させてください。

事例:三次救急病院を希望の医師が二次救急病院に入職するまで

【概要・背景】
ある地方で二次救急を担うA病院は、医師を招聘するために手を尽くしていましたが、慢性的な医師不足は変わらず、頭を悩ませていました。自力での医師確保に限界を感じ、エムスリーキャリアとの採用プロジェクトを始めました。

【取り組み】
採用プロジェクトでまず取り掛かったのが、採用したい医師像を明確にすることでした。

しかし会議を開いても、院長たちは「高望みしても仕方ない」という気持ちがあってか、「どんな医師でも来てくれれば」という回答ばかり。そこで、スキルや年齢などのミニマムラインを決めることにしました。その後、A病院にとってのベストな人材要件も書き出すことで、次第に本当の意見が出てきました。

たとえば整形外科は、常勤医2名で年間800件近くもの症例を扱っていたため、ミニマムラインとして症例数を多く扱える整形外科医、ベストを若手・中堅でA病院の今後を支えてくれる整形外科医などと定めることに。

次は、ベストからミニマムまでの範囲に該当する医師に対し、いかにアピールするかです。「A病院なら一人で年間200件は担当する余地がある」という点を差別化ポイントにして、県内外の紹介会社に売り込んでいきました。

そうしているうちに、ある紹介コンサルタントから飛び込んできたのが、他県にいる30代・整形外科医B先生の情報でした。B先生は当初、三次救急の病院を希望して紹介コンサルタントに相談したのですが、実は「三次救急=症例数が多い」というイメージによる希望条件だったことが判明。それを知った紹介コンサルタントが、一人当たり症例数の多いA病院を提案してくれたのです。

A病院とエムスリーキャリアでは、B先生が野球好きといった情報も得たため、コンサルタントに対し、「地元の少年野球チームでスポーツドクターのようなこともできる」といった追加アピールも実施しました。そうした売り込みが奏功して、B先生の入職が決定。

A病院は、人材要件のベストとミニマムの中間に位置する医師を招き入れることができました。

―この事例の成功要因は何だったのでしょうか。
平田氏:
A病院の熱意と、一人当たり症例数が多いといった魅力、そこに私たちの強みが組み合わさった結果だと思います。

私たちの場合、人材紹介事業を自社展開していることもあって、コンサルタント側の考え方を理解できるのが強みになっています。また、全国規模で事業展開しているため、医療機関だけではアプローチしにくい県外・地方外の医師に関する知見も持っています。

私たちの「採用窓口アウトソーシングサービス」では、ただ採用業務を代行するというより、どうしたら医療機関の魅力を十分に伝えられるかという視点を大事にしたいと考えています。私達がいなくても医療機関の方たちが採用活動を成功させられる状態を作ることが、最終的なゴールだと考えています。

―最後に、医師の採用でお困りの方々にメッセージをお願いします。
柳牛氏:
医師の採用環境は大きく変わってきました。以前は大学医局から“派遣”してもらうことで確保できていましたが、徐々に難しくなり、自力でなんとかしないといけない医療機関も出てきています。

これを厳しい時代になったと見ることもできますが、医療機関が自身の魅力を発見、またはつくるチャンスでもあります。その魅力に惹かれて医師が入職するならば、医師にとっても医療機関にとっても喜ばしいことではないでしょうか。

平田氏:
そうですね。ただ、そこに至るまでの過程はご苦労も多々あるかと思います。医師の採用でお困りの際は、ぜひご相談いただければと思います。

平田樹(ひらた・たつき)
 エムスリーキャリア株式会社 経営支援事業部 採用アウトソーシンググループ(取材当時)
近畿大学 生物理工学部生物工学科卒業。医療機器メーカーで営業担当として従事する中で、働き方に課題を抱える医療従事者が多数での課題を抱えている事実に直面。根本から解決したいという思いから、エムスリーキャリア 経営支援事業部へと入社。人材確保の観点から、医療の地域格差是正を目標に掲げ、全国の医療機関の採用活動を支援。
柳牛寛行(やぎゅう・ひろゆき)
 エムスリーキャリア株式会社 経営支援事業部 採用アウトソーシンググループ
関西外国語大学外国語学部英米語学科卒業後、水道インフラのメーカーに就職し、営業職を経て海外事業部に配属され営業管理職としてベトナム・ホーチミン市に駐在。
その後、エムスリーキャリア株式会社に入社し、医師採用コンサルタントとして全国の医療機関をクライアントに持つ。「戦略的な医師採用」をモットーに、医療機関にとって本当に必要な医師を様々な角度から分析し、採用活動を支援。
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